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たまには長文を

脚本と絵コンテの二刀流について

アニメ制作において、同じ人が同じ回に「脚本」と「絵コンテ」を両方担当する"二刀流"のケースを近年よく目にするようになった。

 

 

もちろん私とて各クールのアニメを全部見ているわけもなく、アニメ業界全体で本当にこの二刀流のケースが増えたのかどうかは分からない。あくまで私個人の感覚の話である。

それでも一応これまで見つけたらTwitterに書き残してきたので、私の過去postと自分自身の記憶を遡って二刀流のケースを抽出してみた。それが下の表である。

 

脚本と絵コンテの二刀流(2023年11月現在、私が知っている範囲で)
制作年 タイトル 担当者
2023 聖女の魔力は万能です(2期) 第1話 井畑翔太
(※監督)
2023 異世界でチート能力を手にした俺は、
現実世界をも無双する
~レベルアップは人生を変えた~
第3話 ひいろゆきな
第5話 田辺慎吾
第8話 長谷川千夏
2023 スパイ教室(1期) 第8話 川口敬一郎
2023 異世界のんびり農家 第1,2,6,
9,12話
倉谷涼一
(※監督)
2022 ヤマノススメ(4期) 第5,6,9,12話 山本裕介
(※監督)
第3話 カトキハジメ
第7話 ちな
2022 ルミナスウィッチーズ 第1,2,7話 佐伯昭志
(※監督)
第6話 春藤佳奈
2022 リコリス・リコイル 第1話 足立慎吾
(※監督)
第5,6話 鹿間貴裕
2022 プリンセスコネクト!Re:Dive(2期) 第1,2,3,5,
7~12話
金崎貴臣
(※総監督)
2021 聖女の魔力は万能です(1期) 第1話 井畑翔太
(※監督)
2020 アサルトリリィ 第1,3,7,12話 佐伯昭志
(※監督)
2020 プリンセスコネクト!Re:Dive(1期) 第1~7,
10~13話
金崎貴臣
(※監督)
2018 ヤマノススメ(3期) 第1話 山本裕介
(※監督)
2017
~2012
てーきゅう 全9期、全話 板垣伸
(※監督)
2015 放課後のプレアデス(TV版) 第1~4,
6,12話
佐伯昭志
(※監督)
2013 ヤマノススメ(1期)
※5分アニメ
全13話 山本裕介
(※監督)
2010 ストライクウィッチーズ(2期) 第6話 佐伯昭志
2008 ストライクウィッチーズ(1期) 第6話 佐伯昭志

 

 

私が初めて「同じ人が同じ回に「脚本」と「絵コンテ」を両方やっていること」に着目したのは2008年のストライクウィッチーズ1期の第6話だった。多くのファンから神回と称されたサーニャ回である。担当は佐伯昭志。ちなみに2年後の第2期でも、狙ったかどうだか同じく第6話で二刀流をやっている。

そこから時期は飛んで次に二刀流を目にしたのはヤマノススメ第1期。ただしヤマノススメ第1期は5分アニメだったので、監督の山本裕介が自ら脚本と絵コンテをやるのはあまり違和感のないことだった。

次に見かけたのはやはり佐伯昭志の名前である。放課後のプレアデスでは多くの回を担当した。ただしここでも注釈をつけておくと、このときは1つの回につき脚本も絵コンテも複数人で担当した回が多かったので、仕事の負担感は一概に言えない。

てーきゅうでは監督の板垣伸が全9期・全話を担当した。5分アニメとはいえこれはすごいことだと思った。
なんと2013年のpostが残っていた。

板垣伸監督の話題はこのあとまた触れる。 

そして個人的に二刀流増加のターニングポイントと思っているのが「プリンセスコネクト!Re:Dive 第1期」(2020年)である。
30分アニメにもかかわらず、全13話中なんと11回も金崎貴臣監督が自ら脚本と絵コンテを担った。毎回のようにEDテロップで脚本と絵コンテに監督の名前が出てくるので驚いたのをいまでも覚えている。
しかも2020年と言えばコロナ禍のピーク。東京オリンピックが延期になるほど社会全体が最もピリピリしていた時期である。にもかかわらず作画は極めて安定していて、しかも戦闘シーンは劇場版クオリティだった。

 

vector-cd.hateblo.jp

 

2022年には話題作「リコリス・リコイル」が放送。90年代から長年作画畑を歩んできた足立慎吾が監督として脚本にも挑戦したことが話題を呼んだ。足立慎吾といえば個人的にソードアート・オンラインWORKING!!でその名前を覚えていたので、本作で監督と脚本もやると聞いて驚いたものである。また本作では、第5話と第6話でも鹿間貴裕が二刀流。

そこから先、単発での二刀流を見かけるようになった。こうして表にまとめてみても30分アニメで監督以外の担当による二刀流が現れ始めたことが分かる。

直近で印象的だったのは「異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する~レベルアップは人生を変えた~」(通称いせれべ)で、監督は先ほども触れた板垣伸。そして板垣伸ご本人ではなく別の人に二刀流をさせているふしがある。複数回あることから察するに、これは敢えての人材育成なのだろうか。


その一方で、二刀流が増えた別の理由として「コロナ禍で二刀流を余儀なくされたもあるかもしれない。アニメ業界は相変わらず供給過多だし、アニメ化企画と時間だけは進むのに人が集められず脚本と絵コンテを両方やらないといけなくなったのかもしれない。



そんなわけで、二刀流の増加がポジティブな変化なのかネガティブな変化なのかもわからず、そもそも本当に増えているのか客観的なエビデンスも無いんだけど、足掛け15年ほどアニメのEDで脚本と絵コンテをチェックしてきた私の観測範囲の中では増えたよなぁという感想をまとめてみた。

何年後かにこの表をアップデートできたらいいな。