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たまには長文を

転生王女と天才令嬢の魔法革命感想

ディオメディア史上最高傑作だと思う。

(以下ネタバレあり)

 

ストーリー展開も作画も両方良かった。

誰よりも魔法に憧れながら魔法を使えないことで貴族から見下されてきたアニスフィア。王位継承権を放棄し魔石を集めるために狩猟に飛び入り参加しては冒険者ギルドと魔物を倒す様子に、私たち視聴者は自由闊達なイメージを持つ。しかしその実、アニスは押し潰されそうなほどの重い責任感を自覚していた。

まずこのギャップに惹かれる。
「男性との結婚はごめんです、愛でるなら女性がいいです。」かつてアニスはそう宣言した。イリア、ユフィ、レイニと"百合ハーレム"を築いているように見えるが、イリアを引き取ったエピソードやレイニの特性に触れる際にレイニの尊厳を尊重して人払いをするなど、実際にはかなりの常識人であることが伺える。

自分が我慢して犠牲になればよいと王位継承権を復活させて魔学の研究をやめてしまう展開も見ていて胸が締め付けられる思いだった。

アニスが異世界転生者であり前世の記憶を持っていることも最終話まで特に言及されず、私も終盤までは無用な設定だと思っていた。しかしアニスは昔から自身のアイデンティティを疑っていて「自分が本来のアニスフィアを追い出したのではないか」と吐露する姿には心打たれた。


序盤ではアニスがユフィの手を取ったのに終盤ではユフィが主導権を握る逆転も対比として美しく、百合の王道展開。お互いに自分より相手を大切に思うからこそ決闘に至る展開も熱い。
ラストのキスシーンも相俟ってついついアニスとユフィの百合関係だけに目が行きがちなんだけど、そのエネルギーが「国を良くしたい」という原動力に昇華されているのが深い。


ユフィリアもまた印象深いヒロインだった。才能に恵まれ「良い子」をずっと演じてきて自然に笑うこともできなくなっていたユフィがアニスに手を取られて変化していく成長が鮮やかだった。

脚本は、シリーズ構成の渡航を中心にさがら総と王雀孫の3人体制。前の二人はラノベ作家、王雀孫はエロゲシナリオライターである。最初からアニメ業界にいなかったからこそ一味違う脚本を書けるのだろうか。


そして作画も良かった。
元々ディオメディア萌えアニメは10年以上前から大好きでずっと推してきた。そして本作は歴代で一番良かった。

分かりやすいところでは戦闘シーンの風圧魔法のエフェクトが凝っていて綺麗だった。井出直美をはじめとしたディオメディアのいつものメンバーが描くキャラデザも好き。

さらにその陰に隠れて、背景と「花」が良かった。
背景は毎回のように30人近く人員を投入して描かれたらしい。EDを見ていても背景作画にたくさんの名前が出てきた。第3話では38人、第6話では28人に外注まで使っている。普通ならこれだけ作画班がいると万策尽きかけてるのかと思うところだが背景は非常に丁寧だった。

 

そして「花の多用」である。シーンの切り替わりやテーブルに置かれた花が毎回何度も映った。しかも見せつけるようにアピールするのではなく、何気ないシーンの切り替わりに映すくらいなので、特に気にしなかった人が99%だと思う。それでもサブリミナル的に視界に入る様々な花に無意識に心地良さを感じたのではないだろうか
私が「花が多いな」と思ったのは第5話あたり。このアイデアや功績が監督なのか絵コンテか作監なのかは分からないが、花を描くのも地味に大変だろうから、本当に手が込んでいる。とことん丁寧に作られている。

 

 


最後に話をストーリーに戻すけど、ちょうど時代のトレンドにも合っていたように思う。理不尽な境遇にも屈せずとことん前向きな少女が真面目な少女の手を強引に採って進んでいく構成は昨年(2022年)の『リコリス・リコイル』を思い出す。

かと思えば最終話で前世の話を打ち明けつつヒロイン同士でキスする展開は名作「神無月の巫女」(2004年)と並ぶ。 


ユフィリアは精霊契約を果たして不老になった。
将来、老衰で息を引き取るアニスを穏やかに看取る見た目15歳相当のユフィを見てみたい。