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劇場版プリンセス・プリンシパル Crown Handler第3章感想

フラグを散りばめて回収していくストーリー展開が滑らかで非常に面白かった。脚本のレベルが高かった。

(以下ネタバレあり)

 

【あらすじ】
第一王子・エドワードを暗殺した第三王子・リチャードは、今後どちらにくかプリンセスに迫る。「回答は今でなくても構わないがそんなに長くは待てない」と釘を刺されたプリンセスはどうするか悩んでいた。
首謀者がリチャードであることを知っているのは現状プリンセスだけである。ドロシーはとても自分たちの手に負える話ではないとコントロールへ報告することを提案したが、リチャードの目指すところが自身とも近いことを感じていたプリンセスはチーム白鳩で相談した結果として、コントロールへの報告を保留とした。
エドワードの葬儀においても貴族たちはアルビオン王国(東側)の今後を読む話が絶えない。実質的に政治を動かしている内務省ノルマンディー公に就くのかリチャードに就くのかで貴族たちの今後が左右されるためだ。
第二王女・メアリーエドワードの死去により王位継承権が一位になっていた。今後の公務に耐えられるようこれまで以上に詰め込み教育が施されようとしていた。同じくしてコントロールからの指示によりアンジェドロシーは侍女として王室に潜入した。窓掃除をしていたアンジェはリチャードが謎の男と会話しているのを目撃する。一方メアリーのお茶係となったドロシーは見るからにやつれていくメアリーを気に掛ける。
そんなある日、大切にしていた人形も捨てられ過度な詰め込み教育に耐えかねたメアリーは窓から逃走を図る。壁伝いに移動するメアリーであったが落ちればただでは済まない高さであった。ドロシーは急いで反対側のベランダへ走り、来ていた服やロウソクの燭台を利用して間一髪メアリーを救出する。メアリーの教育係はなだめるどころかメアリーを平手打ちで叩いた。
王室ではエドワードの葬儀にも参列できないほど弱っている現女王がノルマンディー公に対して後は任せると伝えた。
一方、別の部屋ではエドワード暗殺の責任をノルマンディー公に負わせるべきか議論されていた。女王の代理として参加していたリチャードは、ノルマンディー公を失脚させたとして代わりを務められる人物がいないとして一旦自身が預かることにした。
バードハンティングをしていたノルマンディー公の元にリチャードが現れる。ノルマンディー公は、会議でリチャードが自分を庇ったことに一定の謝意を示しつつもこれ以上動くなと釘を刺した。対してリチャードは銃でノルマンディー公を狙うそぶりをしつつ「ゲームは楽しまなくちゃ」と呟いた。あるパーティーの夜、リチャードはプリンセスに対し「世界を修正したい」と語った。
チーム白鳩は作戦会議をしていた。メアリーを助けたいプリンセスに対してアンジェは冷たく自分たちの役割を説く。メアリーを救う手段としてリチャードをも追い抜いてプリンセスが王位を継ぐことも選択肢の一つであるとアンジェは告げた。
別の日、プリンセスは自らノルマンディー公にかけあい、メアリーに休息を与えるべくお茶会を開く。博物倶楽部のお友だちとしてちせも参加してひとときの安らぎを与えた。
リチャードもまたメアリーの様子を気にしていた。あるとき唐突にメアリーの元を訪れると、プリンセスの計らいである程度元気になったメアリーを見て興味を失ったように引き上げて帰っていった。廊下の調度品を床に落として壊しながら、リチャードは何か思案する。
別のパーティーの日、リチャードは大切な用事と称してプリンセスを呼びつける。メアリーに同行しようとしていたプリンセスはやむなくリチャードの元を訪れるが一向に話は始まらない。そんな中、二人の元に知らせが入る。メアリーを乗せた車が襲撃されたのである。メアリーは一命を取り留めるも意識を失っていた。その情報を得たリチャードは驚いたふりもすることなくプリンセスに対して特に用はなかったと告げる。リチャードはもはや襲撃の黒幕が自分であることを隠すこともしなかった。
メアリーの命を守るため、プリンセスはメアリーの亡命を決断する。教育係の監視を掻い潜りベッドシーツに紛れて部屋を出たメアリーは待女(名前分からん・・)とともに地下から脱出を図る。王城を出た一行はケイバーライトで駅に飛び移り、共和国の手配した列車に乗り込んだ。しかしアンジェは目的の駅に着く直前に列車を停止させる。駅にはすでに敵が待ち構えていたのである。空中の列車から地上に降りたアンジェたちは、船が出るまで時間がないことからケイバーライトの残りのエネルギーを使って一気に船に飛び移ることにした。アンジェはメアリーに対して今後しばらくシャーロット(プリンセス)とは会えないと告げる。それでも亡命するべく、アンジェはメアリーを連れてケイバーライトで飛んだ。

しかし、目的の飛行船はすでに王国(東側)の手に落ちており待ち伏せされていたアンジェたちは捕まってしまう。同時に地上でもチーム白鳩が包囲されていた。そこに現れたのはノルマンディー公の部下・ガゼルであった。
チーム白鳩はプリンセス以外全員独房に収監され、プリンセスはノルマンディー公に尋問されていた。合わせてノルマンディー公はエドワード暗殺の容疑でリチャードを収監したこともプリンセスに告げたのであった――。


第2章を見たのが2021年9月なので約一年半待っていたことになる。
率直な第一印象としては、「溜め回」だったかなと思う。ピリピリした腹の探り合いは控えめでケイバーライトを使ったアクションも終盤で飛んだ時だけだった。とは言ってもアクションアニメではないので派手なアクションシーン自体は少なくて構わない。


脚本は今回も木村暢。フラグの立て方が非常に丁寧で欲しいところに欲しい展開が来る気持ちよさ。
あらすじは上に書いたが改めて振り返りつつ見ていこう。

エドワード暗殺の黒幕が第三王子・リチャードなのは第2章のラストで見たわけだが、序盤それをコントロールに報告するのを保留にした時点で「チーム白鳩は手痛い失敗をするだろうな」と思った。彼女たちはスパイであり上位へのエスカレーションは必須。そこに独自の判断を混ぜた瞬間にほころびが生じるのである。
それは本作が硬派なスパイものであり、「独断だったけど上手く事が運んで結果オーライだからめでたしめでたし」みたいな軽いノリの作風でないことからも明らかであろう。
メアリーの亡命が成功するか失敗するかは最後まで予想できなかった。それ故に、ラストの展開にはチーム白鳩が失敗した「意外性」とフラグが回収された「納得感」が両立した。序盤に仕掛けたフラグが最後の最後に回収される鮮やかな脚本であった。


白鳩のリーダーであるドロシーが、ストレスでやつれたメアリーを見て肩入れしてしまう過程も丁寧に描かれていた。窓から逃走を図ったメアリーを救出する際には脇目も振らずに走りながら布をひも状に加工していた。
ただの侍女がそんな芸当できまい。
本来であればスパイであることがバレるような行動は取るべきではないはずだ。

直接示唆されていたわけではないが、このシーンもまた白鳩の「綻び」を示すフラグの一つだったのかもしれない。
そもそもこの逃走劇自体も、直前にメアリーの人形が無情に捨てられることでしっかりトリガーを作っている。このシーンがないとメアリーが唐突に逃げ出したように見えてしまうわけで、ストーリー展開が丁寧である。

中盤でリチャードがメアリーの様子を気に掛けたのもしっかり伏線であろう。
リチャードは最終的にはメアリーも消したいはずである。それで詰め込み教育によってどれだけ衰弱しているか確認しに行ったわけだが、プリンセスの策略で休息を得てメンタルが回復したメアリーを見て、ついにリチャードは直接的な襲撃を決断したのだろう。

プリンセスがリチャードと協力するか否か悩んでいる間に事態は悪化した。プリンセスはそれを重々分かっていて、もっと早く決断しきれなかったことを後悔していた。
にもかかわらず、亡命の決断をメアリーに迫るシーンが個人的に第3章で一番印象的だった。
幼いメアリーに亡命するかどうかを「決断してほしいの」と言ったところでメアリーには根拠を持って決断できないだろう。というか亡命の意味すら分かっていない気もする。
プリンセス自身が決断できなかったのに、そして決断することの難しさを噛みしめていたにもかかわらず、同じような構図――選択肢は明らかに一つしかなく、選ぶか否かの決断――を作ってしまう。これが対比として非常に強烈だったし、他に選択肢がない「八方塞がり感」が色濃く出ていた。


終盤、メアリーの亡命は失敗に終わる。最後にプリンセスたちが取り囲まれた際に出てきたのはノルマンディー公の部下であるガゼルであった。ガゼルはメアリーが襲撃された際にメアリーの元に駆け寄るプリンセスの姿をじっと見ていた。おそらくこのタイミングでメアリー亡命の可能性に気づいたものと思う。具体的な台詞もなく時間にして1秒程度だが、こうした伏線を張っておくあたり本当に脚本がよくできている。

まぁ敢えてツッコむとすれば、亡命計画を掴んでいたなら駅や飛行船ではなく王城を地下から抜けるところで捕まえた方が一般市民にもバレないし楽だったと思うのだが、それはまぁ脚本の都合だろうか。そうすると第3章でケイバーライトを使って空を飛ぶシーンがゼロになってしまうし・・。


そんなわけで、60分の間にフラグを張っては回収していくストーリー展開の起伏のバランスがとてもよく、緊張と緩和が滑らかに繋がっている脚本だった。



さて、チーム白鳩が共和国(西側)のスパイであることがついにノルマンディー公にバレてしまったわけだが、使えるものは敵でも使うとしてすぐには殺さないのが硬派なスパイものである。
とはいえ、王位継承権第四位エドワードが殺害されたので第三位)のプリンセスが西側のスパイであったという衝撃を考えると安直に自由が与えられるとも思えない。というかプリンセス以外は普通に考えればもう生きて出られないと思う。



そうなると第4章のストーリーもある程度見えてこないだろうか。
ここで(大外れして恥をかくリスクを承知で)第4章の展開を少し予想してみたい。

まずメタ的に、アンジェ以下プリンセス以外のチーム白鳩がここで処刑される展開は外せる。全6章とアナウンスされているところ、第4章以降はプリンセス一人なんてことにはならないだろう。
私の予想はチーム白鳩が今度はノルマンディー公の指揮下で王国(東側)の二重スパイとして活動する展開だ。使えるカードは敵でも使う、緊張感のある痺れたストーリーになるしノルマンディー公ならそこまでやるはずだ。

実は、アニメ版公式HP(劇場版Crown Handlerの公式HPではなく)を見に行くと用語の説明として「二重スパイ」が記載されている。
二重スパイは情報戦では極めて有効な手段であり、イギリスは第二次大戦時に二重スパイを統括するダブルクロス委員会を創設し、ドイツのスパイをイギリス側に裏切らせる活動を行っていた。二重スパイをもう一度裏切らせる三重スパイ、それをもう一度裏切らせる四重スパイも存在する。(※アニメ公式HPより引用)

これがこのピンチを打開する展開に繋がりそうである。


最後にもう一つ、第4章を早く作ってほしい。早く続きが見たいという個人的なお願いもあるがそれ以上に売上や制作の投資回収を心配している。

上述の通りこの第3章、脚本自体は非常によくできていたと思う。しかし腹の内を探り合う駆け引きやアクションは控えめの「溜め回」だった。1年半待った割にはアニメ玄人向けの渋いストーリー展開とも言える。(私は非常に満足しているが)

アニメ本編が2017年放送、劇場版第1章が2021年公開であったことを踏まえると、根強い古参ファンが離れないうちにやり切らないと来場者は目減りしていく。コロナ禍もあって大変だっただろうが人気が途切れないうちに最後まで駆け抜けてほしい。本編60分、普通のアニメなら3週間分。3週間で作れとは言わないけれど、また1年も待たせるようでは厳しい。

2021年の第2章のラストでは「第3章鋭意制作中」と表示されたが今回は第4章を作っているようなアナウンスはなかった。なんとか早めに作ってほしいと願うばかりである。

 

 

 

第2章の感想

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第1章の感想

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