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たまには長文を

映画 五等分の花嫁感想

物語のフィナーレまでを描く堂々の完結編。

(以下ネタバレあり)

 

物語中盤から「一花の場合」と始まり、まさか映画内でマルチエンディングをやるのかと焦ったのは私だけではないだろう。

結論から書くと「期待以上」だった。特に風太郎が四葉を選んだ理由がよく分かった。まずはその辺から順を追って書いていきたい。

 

アニメ第1期(2019年)では三玖、第2期(2021年)で五月推しだった私は、原作で最終的に「四葉エンド」になる理由がよく分かっていなかった。


(2020年4月4日投稿の第1期感想)

vector-cd.hateblo.jp


(2021年4月4日投稿の第2期感想)

vector-cd.hateblo.jp

 


もっとも、アニメで描かれるのは原作の一部に過ぎないので原作にはちゃんとそこに至る経緯があったのかもしれない。
それにしてもアニメを見ている限り、元気印が取り柄の四葉は特にラブコメ的に深堀りされることは少なかったように記憶している。
元気っ子は嫌いじゃないけれど、五姉妹の中でも一番成績が悪い四葉。正直私なら絶対選ばないし順位付けするなら5番目になる。

故に第2期ラストから四葉エンドに至る過程が一本の線で繋がっていないというか、どうしても不連続な感じがしていた。
それが今回の映画で見事につながった。


事実、風太郎が選んだのは四葉だった。

早くから風太郎に好意を示していた三玖や、遅れて参戦しながら好意を前面に押し出して猛アピールしてきた二乃、ふとした瞬間に風太郎を意識する一花・五月と比べても、四葉風太郎を恋愛対象としてさほど意識していなかったように見えた。
しかしそれこそが四葉の心の内に秘めた思いからの振る舞いだった。

自分のせいで一緒に転校することになった四人に対する負い目や、自分だけが風太郎に選ばれることに対する遠慮。そんな感情から四葉は常に一歩引いて周囲のサポート役に徹してきた。元気で明るいようでいて、実は自己犠牲の精神が特に強かった。


私はこういう性格のキャラが一番好きなのでズルいズルい。こんなの見せられたら好きになるに決まってる。四葉かわいすぎ。完全に手のひら返しするしかない。

 


一般人には五姉妹の見分けがつかないという設定だし、風太郎には見分けがつくといえども外見が同じだからこそしっかり内面を見て風太郎は四葉を選んだのだろうし、四葉エンドになるのも納得。
特にこういうラブコメの告白シーンだと、見ているこちらもこっぱずかしい気持ちになりがちだけど本作では全然そんな気分にならなかった。むしろ風太郎の誠実さが感じられて非常に共感した。
(まぁ映画だからキツいシーンがあっても一時停止できないんだけど)


その他の部分の感想としては、まずは五姉妹の真の父親である無堂というオッサンについて。あの遺伝子からよくあの五姉妹ができたもんだが、元教え子妊娠させてヤリ捨てってのも強烈な設定。ただこの複雑な家庭事情の背景としてはリアリティがあって、変にごまかさないところは評価したい。
また無堂が現れたからこそ中野マルオが五姉妹に対してよそよそしい背景も分かった。
五月が教師を目指す理由として母親の姿を追っているだけではないかと自問自答するシーンも印象深い。無堂と対峙した五月自身が一定の納得を得たのも味わい深い。

四葉が結婚式の後トレードマークだった緑色のリボンを処分するのはちょっと複雑。過去との決別は大事だけど捨てることも無かろうに‥。

代わりに、もう他の姉妹に変装する必要がないと納得した三玖が四葉変装用のリボンを捨てるのはギャグ目線で印象的。ダイナミックポイ捨てやめろ。でもフィクションだから許容。(あのリボンはポイ捨てではなく風に舞って天に昇っていくのです。)


作画に関しては、悪くはなかったけど良くはない。
仮想三玖エンドのシーンだけ顔の作画が露骨に違ってた。

あとは口から上をアップで映すカットが多かった。これをやると口を動かす処理を省略して数秒間1枚絵でしのげる。所謂省エネ作画

ダイナミックな作画が見どころのアクションアニメではないので省エネ作画は否定しないし、136分の長いアニメを作りきるにはこうした割り切りも必要なので悪くは言わないが、ちょっと表情アップの省エネ作画が多かったかなという印象。

実際、作画監督が多かった。原画担当も。おそらく製作期間ギリギリで仕上げたのだろう。

 

監督は神保昌登。この劇場版から初参加。個人的にこの人の名前を見ればすぐにプリズマ☆イリヤを思い出す。夜空の作画はキレイだった。(この人が描いたのかは知らないが)

脚本は大知慶一郎。第1期から皆勤賞。私はアイカツのイメージが強いが「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」シリーズや「まちカドまぞく」など多数の作品を手掛けていて、いつどの作品で名前を見かけても「おぉ」と思う方。

本作の脚本も良かった。
特にシーンの切り替えがうまい。
過去(回想)・現在・未来をうまく切り替えながら時間を行ったり来たりして物語の魅力を引き出した。
というのも、こういう時間の切り替えはテキトーにやるとストーリーがぶつ切りになって視聴者を疲れさせるからだ。
よくある事例は戦闘シーンの途中で回想に入るやつ。一度ならともかく短時間に二度やると「生きるか死ぬか」の緊迫感が消えてしまう。
本作では過去と現在だけでなく、5年後の結婚式という未來の時間まで描く必要があったから、これを違和感なくやり遂げたのはすごいことだと思う。おそらく私以外の観客も時間の切り替えに違和感を覚えた人はほとんどいなかったことだろう。それこそがプロの技である。

 

ということで五等分の花嫁完結。
ただ一人のヒロインを選び結婚までちゃんと描く文句なしの作品だった。