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たまには長文を

処刑少女の生きる道感想

全体的にはかなり満足。2022年春クールの中でも特に見ごたえある良作の一つ。

(以下ネタバレあり)

 

第1話でいかにも主人公っぽい男の子があっさりメノウに殺される展開で掴みはばっちり。異世界転生(厳密には転移)モノで「受け入れる側」に立ち、世界の平和のために異能力者を処刑する設定は新しい。意外とあるようでなかった設定。

その後もアカリを殺すという目的を持ちつつもそれを悟られないように立ち振る舞うメノウの様子はスパイモノのようで程よい緊張感があった。高い実力がありながらサポート役に徹するモモも見ていて気持ちよかった。

ついついメノウ×アカリだけに目が行きがちだが、メノウ×モモも美琴×黒子のようで熱い。というかモモがまんま白井黒子なんだけど。あとはメノウの知らないところでアーシュナとモモが絡んでるのも面白かった。

 

人が「面白さ」を感じるポイントはいくつかあるのだろうが、その一つは「前提がひっくり返る瞬間」であろう。アカリにはもう一つの人格があって、しかも何度も時間を巻き戻していて実はメノウやモモのことも知っていることが明らかになったシーンは特に面白かった。
そして時間を巻き戻すという一見無敵に見える能力でもその力が敵わない存在がある点も見逃せない。

時折メノウの脳裏を掠める既視感の正体が明らかになったらもっと満足感が高まったと思う。ただしこれも原作準拠なので仕方がない。


監督の川崎芳樹は本作が初監督のようだ。初監督でこれだけできるなら今後の作品も楽しみ。

はにゃ?」とか「かや?」がやたら取り上げられていたOPも好き。どことなく掴みようがなくそれでいて真の通った力強さも感じる楽曲で、作品の世界観に合っていたと思う。

重厚な効果音もよかった。特に時間が戻るシーンの「ドゥーン」みたいな低い音はピッタリ。魔道を使うシーンで光が発散する作画も凝っていた。


惜しかったのは2点。
ひとつは第8話の作画崩壊。同じカットの使い回しが擁護できないレベルだった。変なところだけヌルヌル動かしてたのは苦し紛れにネタに走ったのか、労力リソースの配分ができていなかったのか。
二つ目は最終第12話の一番最後のシーン。フレアが何やら決意して立ち上がったところで物語が幕を閉じた。
このシーンは正直不要だった。原作に続きがあるのは明らかだし、視聴者も分かっているはず。抽象的に今後の展開を匂わせるなら良いが、さも次回があるかのような幕引きは全然締まらないので好きじゃない。
というかこのラストがなければ完璧な収束だった。
第11話をピンチで終わって第12話はその続きから。緊迫の戦闘をAパートで終わらせ、Bパートをたっぷり使ってエピローグ的に各キャラを振り返る構成。
メノウとアカリの信頼関係を再確認したところで次の目的地に向かって一歩踏み出す、それでよかったじゃないか。そうしていればここ数年でも特にキレイにまとまる最高の終わり方だっただろうに、本当に残念。最後にどうしてもフレアの動向を描きたかったのだろうか。
もし何らかの事情でフレアが再始動したことを描く必要があったのなら、せめてBパートの序盤に入れたい。とにかく、メノウとアカリが手を繋いで町を出るカットを一番最後に置いていれば最高のエンディングだった。


とはいえ、いろんな要素が高いレベルでまとまっていて、スタッフ陣の熱意を感じられる良作だった。満足。