change direction

たまには長文を

Engage Kiss感想

丸戸史明が、ゲームも小説も経由せず最初からアニメ脚本を書くとこうなるよっていうのを見せてもらった感じ。

(以下ネタバレあり)

 

シュウが生活費の大部分を元カノのアヤノに支払わせているヒモっぷりが重い雰囲気を緩和する。ラブコメベースにせよ「シュウよりやや年上の元カノ」という設定がその辺の量産アニメとは一線を画している。

命がけで戦っている割に軽口を叩く余裕があるのはラノベっぽくて好き。シュウが自らの記憶を犠牲にして悪魔と戦っていくところや、物語が進むにつれて徐々にアヤノとの記憶も失われていく様子は重かった。
重いシーンと軽いシーンの使い分けのバランスが個人的に好みの塩梅だった。ただし一貫性は薄いので好みは分かれそう。

個人的に一番面白かったシーンは意外にもメインキャラとは別の「夕桐アキノがミハイルにカマをかけてベイロンシティの秘密を引っ張り出すシーン」だった。

個別のキャラ名も与えられていない宅配業者のCVに釘宮理恵起用は騙された。絶対後半に絡んでくる重要人物だと思った。


ツッコミどころもいくつかあるけど、一番気になったのは最後のキサラ覚醒シーン。
クライマックスでキサラはシュウとキスして(しかもそれをカンナに見せつけて)本来の力を取り戻したわけだけど、病室で契約解除していたならあの仰々しい契約の儀式をもう一度しなければならないはず。ということは契約自体は解除されていなかったのだろうか。
あと最後のキスでシュウが代償として何を捧げたのかも描かれていない。最終話のクライマックスだから説明する余裕がなかったのかもしれないが、記憶を犠牲にしているのは本作の核になる設定なわけだから説明ゼロというのは寂しい。
いまは力よりも勇気が欲しいかな」とキサラは言っていたので、もしかしたら契約でもなんでもない「ただのキス」だったのかもしれない。

あとはミハイルが小物過ぎて、いる意味がよく分からなかった。


アスモデウスの存在でベイロンシティはおろか人類が危ないみたいな空気だったのに、なんやかんやで兄と妹の兄妹喧嘩に変換されているところはゼロ年代に愛されたセカイ系っぽい。(セカイ系の定義が定まってないのでテキトーに使うものとする)

 

丸戸史明自身が「こういうのでいいんだよ」を目指したと語っている通り、オタクの心に響く展開がいくつもあった。

・重要人物が身近にいた(マイルズ、ミハイル)
・敵対していたキサラとアヤノとシャロンがラスボス・カンナを前に協力する展開
・街の被害は大きいけど大切な人を守れたから良しとする姿勢
・拘束して閉じ込めても当然のように脱獄するシャロンやカンナ
・「シュウお兄ちゃんは誰の味方?」と3ヒロインから詰められるラスト
・爆発オチ


同時期放送のリコリス・リコイルと並んで、「見せたいシーンありき」の作風に感じられる。(批判ではありません)
作画の面では戦闘シーンとキスシーンはやたら動いていた。脚本に関しても復活しかけたアスモデウスが10秒で切り刻まれて消滅した。えらく簡単に処理されたものだが、深掘りしてでも見せたいシーンではなかったのだろう。

ツッコミどころはあれども、夏クールの中でも上位に付けられる面白さと楽しさだった。

 


その他小ネタ。

 

日本じゃないことを演出したいときに車の右側通行を採用するのかな。作画ミスはなかったと思うけれど、なんか微妙に違和感のあるカットもあった。

 

知っている人ならニヤリと笑ってしまうシーン。

 

まぁ絵の自然さを優先させたものだろう。