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たまには長文を

白い砂のアクアトープ感想

P.A.WORKS渾身のお仕事アニメにして私が大好きな群像劇。
全24話。メインのローテ脚本家は柿原優子、千葉美鈴、山田由香。3人とも以前から好きな脚本家。納得の布陣である。
2クール作品の最終回に1クール目のOPを持ってくるの最高。オタクのツボを分かってる。

(以下ネタバレあり)

 

10人いれば10人の信念があって、それぞれ根拠があって譲れないからこそ交渉がまとまらないビジネスもリアリティがあって良かった。

まずは風花。奇しくも盛岡出身という設定に親近感を覚えた。アイドルとしてセンターのポジションを掴みかけたのに、後輩に譲ったことで「やる気がない」と見做されて冷遇されたのがかわいそうだった。私も自分より他人を優先させてしまう性格なので風花のつらい気持ちがよくわかる(自分で言っても説得力ないけど)

くくるの姉代わりのようでいて、実は風花もくくるに依存していた構図が心に響く。半ば自暴自棄的に沖縄の地に降り立ったのに、そこからペンギンの名前を覚えるなど生きる目標を見つけて努力する姿に感動した。

次にくくる。大好きながまがまが閉館(廃業)しティンガーラでパワハラ副館長のもと楽しくない営業の仕事をするのはさぞストレスが溜まったことだろう。ただ自分の思いだけで暴走するあたり、若さと未熟さも垣間見える。風花に依存していたことを自覚し風花を送り出す決意をしたくくるの成長は立派だった。

副館長の言動は今の時代なら確実にパワハラだし、見ている私もかなりストレスが溜まった。一方で、新人のくくるを育てつつ営業として集客と収益を意識しないといけないのも事実なので完全には嫌いになれなかった。私はもう社会人なのでこう感じたが、大学生や高校生が見たら副館長は完全に悪者なのだろうか。
転職組にして副館長になっている辺り実際には優秀なのだろうし、もしできることなら副館長自らその経歴と仕事に掛ける思いを明らかにしてほしかったと思う。


実はくくるとの関係が悪かった知夢ちゆも登場当初から悪い人だとは思えなかった。努力して手にした水族館の仕事なのに、廃業寸前のがまがまに出向させられてくくるみたいな人を見たらそりゃああいう言動になるだろう。もちろん社会人としてはあまり褒められた態度ではないが、プライドがあるからこその言動でもあった。

脇役ながら個人的に印象に残ったのが夏凛かりん。いくら水族館で働くのが夢だったとはいえ、公務員の立場を捨てて転職した行動力がすごい。
私なら――そんな行動は起こせない。だからこそ新しい世界に飛び込む決断に惹かれた。

 

元々は水族館に興味がなく通いやすいからティンガーラでバイトしていた真栄田朱里まえだあかりや料理人の月美つきみが正式にティンガーラに就職するフィナーレもオタク心をくすぐる良い展開。手堅いストーリー運びが熱い。

ストーリーだけでなく作画もかなり良かった。空の青と海の青。水槽で泳ぐ魚や生まれたウミガメが海に向かって歩くシーンなど、細部まで手の込んだ綺麗で美しい作画だった。

 

ネットで感想を漁ってみると、沖縄の妖怪・キジムナーが結局最後までストーリーに絡んでこなかったことに対する疑問や批判の声も見受けられる。しかし私はこれで正解だったと思う。むしろどうやってストーリーに絡んでこられようか。人の目には見えない妖怪あるいは精霊として信仰の対象になっているのがちょうど良かろう。
むしろ最後まで回収されなかった迷子のイルカの方が気になるところ。しかしこれもフラグ回収の残しではなく、これが正解だったのだろう。得てして自然界の問題は人間(人類)に解決できないことも多い。物語的には何度か引っ張った挙句結論を見ることなく「2年後」に飛んでしまったわけだが、さりとて2クール目では海洋汚染についても触れていたわけで、少人数の人間の手で解決できない問題が「現にそこにある」というテーマをキャラたちに与えるだけでも役割としては充分であろう。


全体を通して、いろんな人のそれぞれの立場から「会社」と「社会」が成り立っていることが分かるすばらしい群像劇だった。2クールだからこそえがける深い作品だった。