change direction

たまには長文を

ピーチボーイリバーサイド感想

ヒトと鬼、そして様々な種族が敵対している世界。「正義の反対は別の正義」な世界観は好きだし、敗者が容赦なく死ぬ展開も緊張感があって悪くない。平和や妥協を目指すサリーが実は覚醒するとかなり好戦的なのも皮肉が効いている。

(以下ネタバレあり)

 

物議を醸した放送順のシャッフルに関してだが、こうして最終回(≠最終話)を見終わってみると、納まりが良い回を最終回に持ってきただけあって確かにうまくまとまった感はある。それは認める。原作付きアニメをやろうとすると微妙なタイミングまでしか作れないのはアニメ業界の宿命の一つなのも分かる。

でも放送順のシャッフルはやっぱり手法として悪手だと思う

最後キレイにまとまった感じがするのは文字通り最後だけで、途中は話の前後が繋がらなくて混乱した。

一話完結式の作品を除いて、面白い作品というのは毎回続きが気になるタイミングで終わり、次週の放送が待ち遠しくなるものだ。アニオタになった2007年頃からかれこれ500以上のアニメを見てきた私でもそんな作品に出会えるのは年に一作程度だが、それでも面白い作品を見るのは楽しい。

しかしどんなに続きが気になるように1話1話が締められたとしても、放送順がシャッフルされてしまってはその良さをそもそも味わえない。


もっとも、監督ほか制作サイドの悩みもよく分かる。
監督の上田繁はスタッフインタビューで次のように語っている。
・原作が続いているなか原作通りにやると中途半端で終わってしまう
・この物語はサリーが主人公だと思った。しかし原作通りにやるとそれが分かりづらくなる
・オリジナル展開はやりたくなかった

まぁどれも共感できる。もし仮に自分が監督になったとしてこの作品をどうにかアニメ化しなきゃいけなくなったら同じ悩みを持つだろう。

ラノベ原作にせよ漫画原作にせよ、原作付き作品をアニメ化するにあたっての永遠のテーマの一つが「枠の中でどこまでアニメ化するか」であろう。1クールなのか2クールなのかだけでなく、同じ1クールの枠でも全12話と全13話でも違うし、場合によっては全10話のこともある。

そして30分アニメの場合でも正味放送時間は約24分、OPとEDがそれぞれ1分30秒程度あるので本編としての時間は実質約21分である。

原作で描かれている内容として区切りの良いところがアニメの話数の枠と一致することなど稀であろうから、一つのアニメ作品としてどこまでアニメ化するかはプロデューサーや監督、シリーズ構成が頭を悩ませるところでもあり、逆に言えば腕の見せ所でもある

よくあるパターンは、
・原作を尊重しつつアニメオリジナル展開をやる(原作至上主義者からは嫌われるが個人的には好き)
・日常回など原作にない回を挟んでうまいことピークを最終回に持っていく(これも好き)
・最終回でも締めずに原作通りにやる(個人的には嫌い、特に最終回なのに次週がありそうに終わるのは最悪。最近だと『無能なナナ』)

本作のシリーズ構成は大知慶一郎。数多くのアニメでその名を見る脚本家だ。シリーズ構成としてこれ以上の人材はそういない。この方はシャッフルについてどう感じているのだろうか。


放送順シャッフルはどう擁護しても悪手だと思うが、対案無く文句だけを言うのは失礼なので、もし自分が監督だったらという仮定の下で私から2つアイデアを出したい。

一つは原作第1話をアニメ「第0話」とすること。『冴えない彼女の育てかた』で取られた手法。冴えカノのプロデューサーが「第1話から始めるとこの作品は地味だから」という理由で原作ではかなり後の方にある話を持ってきたという。
こうすればミコトメインの第0話はあくまでサブストーリーでサリーメインの話が第1話から始められる。

もう一つは時系列上の第1話を完全な回想回として第4話あたりに充てること。これもシャッフルと言えばシャッフルだが時系列を完全にバラバラにするより現実的だと思う。


最後に。
「じゃあシャッフルしなかったら面白かったか?」
この問いについても最終回の締め方次第だと思う。シャッフルをするくらい原作の山場のピークとアニメ放送枠が合っていなかったことを考えるとよほどうまく調整しないと綺麗にまとまらないと思うが、それでもシャッフルよりはマシだと思う。