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たまには長文を

魔女の旅々感想

安直なパロディもなく独自の世界観を確かに紡いだ見ごたえある作品だった。久しぶりにちゃんとしたファンタジーを見た。

(以下ネタバレあり)

 

自信過剰な主人公・イレイナは灰の魔女として世界を旅しながら成長していく。そこには「めでたしめでたし」で平和に終わる経験だけではなく事件や救いのない結末も存在した。
後味の悪いダークなストーリーもあり、血が流れる回の作画はここ数年としてはそこそこにグロく、見る人にそれなりのショックを与えたことだろう。

個人的に一番好きな回は第4話『民なき国の王女』。父親への復讐を果たした王女・ミラロゼが誰もいない国の誰もいない食卓で、存在しない夫と子供に話しかけながら3人分の料理を作って虚空に話しかけるエンディング、すごくゾクゾクして大好き。

最終第12話でイレイナが出会ったのは別の可能性を持った自分たちであった。何かを選択するということはすなわち何かを選択しないことであり、その選択と結果の数々が本人の性格を形成していくことがコミカルな表現の中にもしっかり描かれていてすばらしい。

イレイナたちは各自の日記を持ち寄り、冒険譚『魔女の旅々』が一定の完成を迎える。最終話にこのシナリオを用意すること自体に感心させられる。

明るい話と暗い話が混在する小説のアニメ化、ともすれば世界観がバラバラで受け入れられづらそうな難しさがあるがそこを完璧にまとめ上げ、かつ最終話にこんな深いシナリオを持ってきたわけで、お見事という他ない。

シリーズ構成・筆安一幸の一流の仕事ぶりを見せつけられた。
私がアニメを見る際に監督だけでなくシリーズ構成が誰なのかをチェックする理由がまさにこれなのである。


時代は今も不安定である。2020年はコロナウイルスの報道を聞かない日はなかった。そんな中イレイナは魅力的に映る。
酸いも甘いも一切冒険譚の1ページとして受け入れ、旅を続けるイレイナの飄々とした立ち振る舞いに惹かれたのかもしれない。