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たまには長文を

神様になった日感想

元々それほど期待していなかったが、その期待をはるかに下回る今期ワースト作品だった。

(以下ネタバレあり)

 

不満点が無限に湧き出てくるので先に要点をまとめる。
・あまりに身勝手で幼稚な主人公
・主体性がなく駒のような脇役たち
・スピード解決する伊座並家の課題
・精神的に小物だったハッカーの鈴木
・無駄を削ぎ落としたという割には必要性がわからないラーメン屋、麻雀、映画撮影、夏祭り、量子コンピュータ
・伏線を匂わせて何もなかったカラの鉢の金魚の影
・必死さが感じられないひなの捜索と手厚い送迎
・治療法がない割には改善傾向を見せるひなの難病
・ひなの本心を無視した二つの「取り戻す」発言

見かけたインタビュー記事は一通り目を通したつもりなので、制作の事情も知らずに的外れな評価をしていることはないと思う。
そもそもこの作品、放送前のハードルの上げようから異常だった。
麻枝准の原点回帰。最終回から逆算してシナリオ作成。推敲に推敲を重ねた。知人を介して繋がったファンに事前に読んでもらった。監督からも様々な指摘を受けメンタルがやられそうだった。等々……。

その結果がコレである。まぁ前置きはこのくらいにして本題に入ろう。

・あまりに身勝手で幼稚な主人公
まず主人公の幼稚さが酷い。イザナミと仲良くなりたいがために図書館で騒いだり家に突撃したり。ひなにそそのかされたとはいえ経営難に苦しむラーメン屋に口出ししたり碌にルール知らないのに麻雀大会に出場して好き放題やらかしたり。ひなの真の父親に会いに行ったかと思えば相手の話を傾聴することもなく罵り、ひなの入院先では騒ぐなと言われているにも拘らず何度も騒ぎ、無理やりTVゲームをやらせたかと思えばゲームの失敗を怒り、怯えるひなを否定する。
毎回かなりイライラしながらの視聴を強いられた。これほど幼稚で身勝手な主人公に共感できるわけがない。

・主体性がなく駒のような脇役たち
本作は学園モノではなく学校の描写はほとんど出て来ない。その代わりに様々な職種・立場の人間が脇役として登場した。しかしその誰もが無条件で主人公に賛同し夏祭りや映画撮影に集合する不自然さが不気味だった。ストーリー進行のためにていよく動かされる駒のようで、はっきり言って作り込みが足りないと思う。これだけバラエティに富んだ脇役を揃えたのだからやり方次第ではもっと面白く重厚なストーリーが書けたのではないだろうか。

・スピード解決する伊座並家の課題
伊座並家では病死した母が残したビデオメッセージを父が最後まで見ていないという問題を長年抱えていた。娘の杏子に諭され勇気をもって一歩踏み出した伊座並父の描写は本作唯一と言ってもいいくらいまともなシナリオだった。いや、まともなシナリオになるはずだった、白けた漫才のようにインターホンを鳴らしまくる主人公さえいなければ。
ギャグ回かと思わせる序盤の茶番劇が残念で感動も8割減。この回自体も1話しかないので、伊座並家長年の課題→伊座並父の本心を探ろうとアプローチ(茶番:インターホン連打からの謎グルメツアー)→解決というスピード展開となっている。この回に1話使うとしても中盤の茶番がなければ心に残る回だっただろうに、どうしてこんな脚本にしたのか意味が分からない。

・精神的に小物だったハッカーの鈴木
いかにも重要人物のように描かれてきた生意気で白髪の天才ハッカー・鈴木も結局ただのたこ焼き好きの脇役だった。しかもボスに盾突く台詞は頭の悪い反抗期の中学生のようでキャラ設定の甘さが際立った。キービジュアルでカッコよく見せておいてこれは残念だ。ギャップ萌えを狙ったのだとしたら見事に空振りしている。

他のキャラ設定に関しても言いたいことは尽きないが、肝心のストーリーの方も振り返っていこう。

・無駄を削ぎ落としたという割には必要性がわからないラーメン屋、麻雀、映画撮影、夏祭り、量子コンピュータ
麻枝准は前二作の反省から、まず最終回を作り、逆算でストーリーを書いていったと述べている。無駄を削ぎ落とし監督やファンにレビューしてもらって何度も書き直したというような発言も見た。
ところがおよそそうは見えない。前述のようにまとまりがなく伏線になっているでもないイベントが並ぶ。
麻枝脚本の悪い特徴として、「真剣に取り組む場面でふざける」ことがある。斜に構えた本人の性格が滲み出てしまっているのだろうけれど、我々視聴者側も真剣に受け止めればよいのかギャグを見ているのか決められなくて肩透かしを食らう感じになるのだ。

・伏線を匂わせて何もなかった空の金魚鉢の金魚の影
個人的に金魚の影には第1話か第2話の頃から着目していて、これだけ怪しいのだからきっと何かの伏線だろうと信じていたのだが、結局何もなかった。

・必死さが感じられないひなの捜索と手厚い送迎
ひなが連れ去られてから約半年、ビラ配りを中心に懸命に捜索した様子が描かれるが、その一方で彼らはひなのいない日常をそれなりに平和に楽しく過ごしていたようでもある。突然現れた鈴木と遊んだり受験勉強の傍ら息抜きにクリスマスパーティをやったり。
呆れたのはこの後の展開である。鈴木との日常がひなとのイベントの繰り返しであることに陽太は気づき、それを確認した鈴木がひなの病院まで送迎する。
話の前後が繋がらない。鈴木がなぜそんな回りくどいことをして陽太とひなが経験したイベントをもう一度体験させているのか。鈴木も「ようやく気付いたか」などと怒っていたが、あの幼稚な精神の鈴木が「直接答えは教えない」という上層部の命令を半年も律義に守るとは思えない。この辺もキャラ設定が不十分なところだ。そして何より、「わざわざ長い時間をかけて陽太にひなとのイベントを追体験させる意味(理由)」が何なのか、特に説明らしい描写はなかった。

挙句の果てに雪深い山中の病院までレクサスで手厚い送迎である。受験勉強を投げ出してでもひなを見つけたかったのならば、それこそ死に物狂いでボロボロになるまで捜索を続け、わずかな手がかりから病院にたどり着く描写でなければ説得力がない。
半年間鈴木と遊んで、タイムリミット(何のタイムリミットだよ?)ギリギリで気づいたら後は万事OKって、アホか。

・治療法がない割には改善傾向を見せるひなの難病
架空の難病・ロゴス症候群に治療法がなく打つ手がないことは、ひなの真の父親が出る回で明言されている。ひなの脳に埋め込まれた量子コンピュータが取り除かれたとあっては植物状態であることを誰もが想像したことだろう。しかし予想に反してひなはそこそこ大丈夫だった。食事もトイレも一人でできないのにゲームだけできてる都合の良さも鼻についたが、そこまで酷くないひなの状況に拍子抜けした視聴者は多かっただろう。そのひなも陽太を思い出したり、車椅子が必須かと思えば映画の撮影で歩くなど改善傾向が見られた。それこそが麻枝脚本が織りなす「奇跡」なのかもしれないが、特に主人公が頑張って手にした奇跡でもないので、やはりここも説得力がない。

・ひなの本心を無視した二つの「取り戻す」発言
かくして、ひなは病院を出て成神家に引き取られる。繰り返すが食事もトイレも一人でできない車椅子の少女を突然一般家庭で引き取るのはかなり厳しい(というか不可能)だろう。前作Angel Beats!でもそうだったが、医学にこだわる割にリアリティがないのは麻枝准の引き出しの少なさ故か……。

そして終盤最大の違和感が二つの「取り戻す」発言である。一つは陽太が言った「ひなを取り戻す」。病院で朝から晩まであらゆるケアを受けているひなを「取り戻す」などとなぜ簡単に言えるのか。ひなは陽太の所有物ではない。過去の経緯はどうあれひなは病院こそがいるべき場所である。それを取り戻すなどと言うのはそれこそ拉致であろう。
もう一つは脇役らの語る「ひなの記憶を取り戻す」。失った記憶を取り戻してほしい脇役たちの願いはまぁ分かる。しかし現にひなに昔の記憶はなく、であれば尊重すべきはいまのひなではなかろうか。目の前の、リアルのひなを無視して昔のひなに固執する態度は見ていても気分が悪かった


総括するに、キャラ設定も弱くストーリーもごちゃごちゃで真剣なのかギャグなのかも固まっておらず、ひな自身の都合には目もくれない幼稚で身勝手なキャラたちが大騒ぎするという醜いシナリオだった。

 

 

 

 キャラ設定の甘さはずっと気になっていたところ。

 

 鈴木のヒントに気付くだけでゲームクリアみたいな感じ。マジでどこに感動するポイントがあるのか。

 ストーリーに説得力がないから薄っぺらいんだよな。世界の終わりまであと○○日って煽ってた意味はありませんでしたとさ。