change direction

たまには長文を

グリザイア:ファントムトリガー スターゲイザー感想

てっきり2019年の作品が全てだと思っていたが、もしかして今回見たのは7作品あるうちの3番目ってことなのだろうか。
駒として使われ、そして平気で捨てられる悲哀がなんともむなしい。キレイごとでは済まないドロドロした大人の世界観が好き。
これまで監督を務めた天衝が降り、副監督だった村山公輔が監督へ。脚本もあおしまたかしに変更され、これらの変更で作風にどのような変化が現れるかも興味深かった。まぁ実際には製作総指揮・シリーズ構成というポジションで天衝も関わっていたので結果的には大きな変化は感じなかった。強いて言えばやや細かい展開がマイルドになった気はする。強いて言えば、だけど。遠距離射撃が多く、血がドバドバ流れる過激さが薄かったからかもしれない。

(以下ネタバレあり)

 

【あらすじ】
浜学園のメンバーは聖エール外国人学校との海外合同合宿のため、ケガで療養中のレナマキを残してフィリピンの離島へ移動する。しかし到着したハルトに入った連絡は、2週間前の戦闘で行方不明になったまま戻らない脱柵者・グミを確保、または処分することだった。魔眼の異名を持つ狙撃手スナイパー・グミは、作戦中捨て駒にされ殉死したパートナー・シホの仇を討つため命令を無視してひとり山中に籠っていた。武器密輸組織の壊滅とグミの確保を行うため美浜SORDも動き出す。
亡くなったシホはトーカの師匠でもあった。シホの訃報にショックを受けたトーカもグミの境遇に思いを寄せる。そしてハルトの指示のもと、聖エールと美浜の連携で敵は"処分"され事件は解決した。命令を無視した罰として聖エールを追い出されたグミは美浜で引き取ることとなったのである。


主要スタッフのポジションは変わっても面白さは変わらず、色々な立場の狙いが交錯する複雑な状況が面白い。こういう硬派な作品は最近少なくなった気がする。グリザイアシリーズみたいに軸がしっかりした作品はぜひオススメしたい。

さて本編。
メインヒロインであるレナと新加入のマキをいきなり退場させるのが斬新で感心した。こんなストーリー構成にするのは勇気がいることだろう。もっとも、本作が今後まだ続くシリーズの一部であるなればこその大胆な構成なのだろうが。

指揮命令を第一とし命令とあれば自害も辞さないような戦闘集団のように描かれてきたこのシリーズのキャラ達であるが、一方で大事な人を捨て駒にされたショックに復讐を誓うところがなんとも形容しがたい確かな魅力を確固たるものにしている。

一見ドライな彼女達にも確かに人の血が流れていることを強く実感する。人が簡単に死ぬ作風の作品だからこそ、命の尊さがその根底に横たわっている

フィリピンの離島という過酷な環境にあって、しかも別の組織の"生徒"同士がハルトの命令で正確に動けることのなんと美しいことか。現実世界の戦争は起こってほしくないがこうした統率の取れた動きを見るのは爽快で快感だ。
確かに見せ場となる後半の戦闘はやや淡白だったかもしれない。敵組織は貧弱で緊迫感もなく一方的に処分された。それでも遠距離射撃により少しずつ敵の戦力を剥がしていくシーンにたっぷり時間を取って緊張感を演出したのは流石あおしまたかし脚本というべきか。
あおしまたかしと言えば私の中では『ゆるゆり』にはじまり『みなみけ』や『ガヴリールドロップアウト』『えんどろ~!』『宇崎ちゃんは遊びたい!』『くまクマ熊ベアー』等々、ユルい萌えアニメを得意とする脚本家の印象だったがこういうピリッとした作品でも面白いことがわかって満足。

終盤ではトーカが実の父親を撃ったことに対して父の意図が語られる。娘を不幸にしないために自らを犠牲にする父もまた親の愛であろう。

個人的にはムラサキの出番が多くて良かった。
ジト目で静かなヒロイン大好き。もっと出番増やして


終盤は前作でマキを美浜に迎え入れた時と似たようなエンディング。「最後はおいしいものを食べて元気になる」という普遍的なテーマで締めるのが美しいのかもしれない