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たまには長文を

劇場版PSYCHO-PASS SS第一作感想

PSYCHO-PASSらしい独特な緊張感や、建前や組織の論理、権限が絡みつく「大人の世界」が滲み出る世界観は健在で、60分という短めの時間ながら充分に引き込まれた。
ただし、2012年の第1期ほどの感動には至らず、第2期、劇場版と徐々に「普通の」作品になりつつあるのは少し寂しい。第1期が良すぎたことの裏返しかもしれないけれど。

(以下ネタバレあり)

 


【あらすじ】
公安局のビルに向かう1台の暴走車両。その運転手・夜坂泉は薬物で脳が汚染されていた。しかし取り調べ直前に送還が決定されてしまう。背後に何かあると踏んだ霜月はヘリで青森へ向かう。
特別行政区サンクチュアリ」。そこは集団心理を悪用した偽りの更生プログラムが施される組織だった。潜在犯たちはかつて雑に処理された放射性廃棄物を回収して適切に保管し直すための駒だった。
そしてそれを裏で進めたのはシビュラシステムそのものだった。

 

身も蓋もないけれど一番感動したのはOP。
「abnormalize」は、山本紗代のOPアニメーションも含めてシリーズ通して一番好きな曲で、そのアレンジバージョンを聞けたのは嬉しかった。

ストーリーも練られていて面白かった。
明らかに怪しいのに「○○省の権限で捜査は終了」みたいな組織の力関係が優先されるもどかしさとか、お互いに敵意があるのに建前上権利とか管轄の話をしているところとか。こういうのばかり見ていたらストレスが溜まりそうだけど、たまに見るからこそピリピリして面白い。

サンクチュアリの正体が放射性廃棄物の回収だったのも、リアリティがあってクール。まぁ舞台が青森の時点で若干頭をよぎったのも事実だけど。

劇場版らしいバトルアクションもあって良かった。殴り合いとか取っ組み合いみたいなバトルよりも頭脳戦を期待したいところだが、これはこれで良い。


そんな中で、唯一残念だったのは霜月の演説シーン。
断っておくと演説自体は良い。隠していた秘密が白日の下にさらされるシーンは爽快だ。
問題は全体的に敵組織のツメが甘いこと。
霜月を地下で追い詰めてサンクチュアリの正体と真の目的を教えてしまった時点で殺すのかと思いきや、会場へ連れ出し潜在犯たちの前へ立たせる。これでは秘密が暴かれるのを待っているかのようだった。
ギャグアニメかよ。
緊張感のないラノベ戦闘アニメならともかく、その場で殺さないなら追い詰めたとしても最後まで手の内を明かしちゃダメだろ。

加えて霜月が秘密を暴露している間、特に妨害する様子もなく、それどころか焦ったように「やめろ!」って叫んでもね……。

途中まですごく練られていて良かったのに、逆転勝利するシーンが雑過ぎて一気に冷めてしまった。

槍みたいな武器を持ったおじいちゃんもなんで一人でのこのこと宜野座に立ち向かったのか。瞬殺されるに決まってるだろ……。


60分しかなかったからなのかもしれないけれど、全体のストーリー構成自体は良かったのでもう一息詰めて欲しかった。最後まで緊張感を持たせていれば、それこそ文句なしに絶賛していたと思う。


黒幕がシビュラシステムと言うオチは予想外ながら納得できるものだった。かつて雑に処理された放射性廃棄物。その回収は、なるほど確かに「誰か」がやらねばならない仕事で、潜在犯を使うのも必要悪かもしれない。ミクロ的には間違っていてもマクロ的には正しい。そういう考えさせられる作品であることは間違いなく、故に多少作り込みが荒かったとしても、もうすぐ公開される第二作に期待をしてしまうのだ。