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たまには長文を

ハイスクール・フリート感想

ものすごく面白かった。2016年の作品で一番と言ってもいいかもしれない。

(以下ネタバレあり)

 

まず設定がものすごく練られている。
根本的な原因を新種のウイルスとすることで、
・「正体不明の謎の敵」ではないのでストーリーにリアリティと深みが増す。
・敵を倒すことよりもウイルスに感染した仲間を助けることに重点が置かれる。
・一方的に倒せば良いわけではなく、両方とも死なずに解決するギリギリのバランスが求められる。
この三つが成り立つ。そして濡れ衣とはいえ反逆者として悪者になってしまう設定も大胆ですごい。最後は無実が証明されるはずとは思いながらも、簡単にはいかない展開が緊張感を際立たせる。

トーリーを作る上で敵の正体をどこまで掘り下げて描けるかは、そのまま作品の奥深さに直結する。敵が組織なのか未知の生物なのか、またその目的が世界征服なのか世界の破壊なのか野望の達成なのか等々、様々なパターンがある。
その一方で敵の正体についての描写を大胆に割り切り、「単に倒すべき敵」とするパターンの作品も少なくない。
それがストライクウィッチーズネウロイであり、シンフォギア(1期)のノイズであり、艦これの深海棲艦である。
まぁこれでもまともな方で、実際には主人公サイドが"何(誰)と、何のために"戦っていたのか覚えていない作品も多い。装神少女まといアンジュ・ヴィエルジュ魔装学園H×HCharlotteアブソリュート・デュオ銃皇無尽のファフニール新妹魔王の契約者ISUCA聖剣使いの禁呪詠唱、etc。キリがないのでやめるけど単に私が忘れているだけかもしれない)


設定の作りこみという観点ではキャラクターの多さも見逃せない。
公式HPのキャラクター一覧に載っているだけでも30人以上になる。しかもキャラ設定が細かい。無線や相撲、柔道といった美少女らしからぬ趣味設定のみならず、麻雀の役作りの癖まで決めてあるこだわりよう。
これらの設定は全てが作中で直接的に描かれたわけではないが、キャラが単なる駒ではなく人格を持った人間として物語内で動くのにかなり効いているのが分かる。

晴風という疑似的なクラスに「モブキャラがいない」という事実を視聴者の何%が意識して見ていただろうか。この贅沢さにどれだけの視聴者が気付いていただろうか。
公式HPのキャラクター一覧を眺めているだけで1時間は楽しめる。
それだけの膨大な労力がこの作品には注がれている。

作画は安定感が抜群だった。
キャラが多いというだけでも大変だろうが、さらに場面は海上か艦内がほとんどで、ともすれば単調になりがちだ。まして艦内は装置が多かったり部屋が狭かったりと制約が多かった。
しかし作画が気になったことは一度もなかった。むしろ同じ操舵室でも撮る角度を変えることで飽きさせない工夫が光っていたと思う。
これも何割の視聴者が意識して見ていたのか分からないが、あまりにも自然にやってのけるが故に、意識した人も少ない気がする。

一番肝心のストーリーは
・不利な状況から知恵で逆転勝利
・敵同士が最後に一致団結
という私が個人的に好きな要素が両方あって最高だった。
入学試験では決して優秀ではなかったメンバーが、そしてスピードにややアドバンテージがあるだけの晴風という平凡な艦艇が、知恵と作戦で大型艦と渡り合う展開は本当に面白かった。特にパラシュートを海中で開いて無理やり船体を曲げるシーンは興奮した。
自分たちに特殊能力がなく相手にはあるという状況から心理戦に持ち込んで逆転勝利するノーゲーム・ノーライフ、或いはFクラスなのに上のクラスと勝負するバカとテストと召喚獣を見ているようだった。

 

ついこの前ブレイブウィッチーズを絶賛したばかりだが、本作は設定の奥深さも相俟ってさらに面白かった。
2016年の作品では響け!ユーフォニアム2期が一番だと思っていたけれど、こちらも同等か個人的な好みも合わせればそれ以上かもしれない。

現在は溜まりにたまった他の作品の録画を差し置いて、本作を第1話から見直している。久しぶりの「2周したいアニメ」である。