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たまには長文を

ノーゲーム・ノーライフ ゼロ感想

ゲーム要素も駆け引き要素もほとんどなかったが、これはこれで確かに「ノーゲーム・ノーライフ」だったし、劇場版らしい派手な演出もあって面白かった。

(以下ネタバレあり)

 


【あらすじ】
「殺し合いが禁じられた世界」ができる前の世界。
他種族と異なり特殊能力を持たない「人間」は理不尽で過酷な消耗戦を強いられていた。一人でも多くの人間が一日でも長く生き延びるために仲間に死を命じるリーダーのリクは、勝ち目のない戦争に心を失いかけていた。そんなある日リクはエクスマキナの少女シュヴィと出会う。彼女は機械でありながら「心」を持ったために種族から同期を外されていた。
リクはシュヴィと協力し、果ての無い殺し合いを終わらせるため自らの身体を犠牲にしながら攻めに転じる――。


これまでにも何度か書いたが私は本作のファンでBDも買い揃えた。
理不尽な状況から知恵と駆け引きで逆転するストーリー展開いしづかあつこ監督特有の強烈な色遣い単体でも聴きたいスタイリッシュなBGMと、その魅力は未だに色褪せない。
しかしながらこの映画は若干毛色が異なる。殺し合いなので戦略や駆け引きは一切なく他種族の一方的な破壊に人間が逃げ惑う構図になっている。

ストーリーの主軸はむしろ、機械でありながら「心」を持ったシュヴィと、終わりのない消耗戦に自分を失いかけていたリクが心を通わせ変化していくことにあった。

前半は映画らしく迫力ある派手な戦闘が何度か描かれるが、基本的に人間がやられるだけなので悲壮感に溢れている。その悲壮感がすさまじく序盤から一気に引き込まれる。
中盤にかけては特に説明らしいセリフはなく、キャラ同士の会話から徐々に世界観が明らかになっていく。ネットで感想を漁ってみたところ、この辺りから専門用語について行けなくて原作未読者には厳しいという声もあった。まぁ実際その通りだと思うし、BD購入者とはいえ原作を読んでいない私も実はあまり設定や用語を理解できてはいなかった。それでも説明台詞になるくらいならこの方が良いと思う。
中盤、発想を転換し各種族を誘導して戦争を終わらせることを決意したリクが、それをなすために仲間に演説する場面は個人的に一番好きなシーンだった。
松岡ボイスの演説はここでも本当に最高だった。
そしてリクが自分の身体を犠牲にし、死にそうになりながら他種族に接触していく後半も面白かった。近年ありがちな「最強の主人公が無双する」ではなくて、文字通り命がけで戦う展開に胸が熱くなった。
終盤、機械であるシュヴィが非論理的な主張を無理やり押し通して仲間と同期したシーンも印象に残った。
そしてなんとかリクの目論み通りことが進み終わりのない戦争が終わるのだが、ボロボロのリクを演じる松岡君の演技は最後まで圧巻だった。

ただし正直に言うとなぜリクが描いた筋書き通りに推移すれば戦争が終わるのかとか、テトはどのタイミングで現れてなぜ神になったのかとか、その辺の細かいところはよく分からなかった。

 

ネットで感想を漁ってみて驚いたのはチェスとの関連性。
序盤の消耗戦は駒が自分だけ少ないとか、能力がない=ポーンしか使えないみたいな状況を示唆しているという。
チェスは将棋とは異なり取られた駒は二度と使えない。故に序盤で大量に駒を失えば逆転は非常に難しい。言われてみれば確かにそんな状況だった。
そしてチェスのもう一つの特徴は「引き分け」が存在することだ。(一応将棋にも千日手はあるが。)チェスでは勝利が見込めない場面で引き分けに持ち込むことは重要な能力と言われている。作中、どうやっても他種族に勝てない人間がなんとかして「引き分け」に持ち込むことで戦争を終わらせようとする展開と綺麗に重なっている。


全体を通しての感想は、まずなんと言っても作画がすごかった。色遣いと光の使い方。これだけでも十分見る価値があると思う。そして声優陣の演技力もまた見事だった。キャラに溶け込んでいて「声優感」を感じなかった。一流の役者が揃っていた。


私が見たかったノーゲーム・ノーライフとは少し違ったが、世界観全体のプロローグとしてはかなり練られていて面白かった。
単なるファンサービスとしての番外編ではなく、この映画で一つの世界が始まって終わる、そんな重厚なストーリーだった。
2017年のアニメ映画の中で最高の作品かもしれない。