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たまには長文を

劇場版ハイスクール・フリート感想

後半の作画の体力切れが残念。劇場版も面白かったものの、結果的にテレビ版の設計の妙が際立つ物語構造だった。
(以下ネタバレあり)

 【あらすじ】
全女子海洋学校の生徒が集まる「競闘遊戯会」、会場の横須賀はお祭りムードで溢れていた。出店でみせ、演劇、自作本の販売など、様々な企画に走り回る晴風クラスの面々。それを見回っていた明乃ミケちゃんましろシロちゃんはスーと名乗る謎の緑髪少女と出会う。日本にいる父親を捜すと語るスーは宿を取るお金もなく公園で野宿を企てていた。明乃とましろは一緒に来るよう勧めたものの、スーは海の近くが良いと言って聞かない。シロはすぐに寝袋3つとテントを手配し、公園で一晩を過ごした。
このやり取りの裏でましろはある選択を迫られていた。艦長が病気で長期入院となった船があり、その船の艦長を打診されたのである。ましろは入学試験でミスをして晴風の副長を務めているが、その後の定期考査を含め本来は艦長を務めるレベルの実力を有している。今のまま晴風の副長を務めるか、晴風を離れて艦長になるか、結論を出せないまま競闘遊戯会は2日目を迎える。
2日目の競技の一つであるシミュレーションゲームのような模擬戦は、その難易度の高さから各校の艦長がエントリーするのが通例となっていた。ましろはこれにエントリーし明乃と本気で戦うことを決意する。ましろの不運属性からか明乃とましろはトーナメント表の反対側、それでも二人とも決勝まで勝ち進み宣言通り戦うことになる。一進一退の攻防が進みそろそろ決着かと思われたその時、外で爆発音が響いた。
"犯人"はスーであった。水路まで移動された遊戯解用のオブジェクトが爆発したことで日本の主要な艦船が出航できなくなってしまった。スーは搬送された病院で、騙されて犯行に及んだことを明かす。
一連の黒幕は世界を渡る海賊であった。海賊の狙いは太平洋に浮かぶ施設。外部からのエネルギーを必要としない完全エコシステムを持つこの施設が海賊の手に渡れば、世界中どこでも海賊行為ができることに繋がるため、絶対に阻止しなければならない。国は校長の宗谷真雪に対して、手段を問わず阻止するよう命じる。しかしそれは学生の命を危険にさらしても良いことを言外に示唆していた。(※この辺の細かい用語とか正式名称が分かりませんので、全然違うことを書いているかも)
生徒を命の危険にさらすわけにはいかないと思案する真雪のもとに武蔵の艦長・もえかもかちゃんが訪れる。事前に上級生への根回しも済ませた彼女は出航の意思があることを告げ、晴風や他校の艦と共に海賊の狙いを阻止する作戦を開始する――。

 

端的に、ストーリー展開は面白かった。

前半は「全キャラ使うんだ!」という意気込みが感じられるお祭りムードで楽しく、中盤は晴風を抜け別の艦で艦長をやるか悩むましろを描き、後半はピンチに対して創意工夫で解決する展開と劇場版らしいド派手なアクションがマッチして、前半とはまた違うタイプの楽しさを見られた。序盤・中盤・終盤と進む推移も自然で、100分の使い方がうまかった。
テレビ版では活躍の場がほとんどなかったもえかがその能力の高さを存分に生かして戦う姿が見られたのもポイント高い。

作中で流れるBGMもカッコよく、クライマックスで流れた「High Free Spirits」は本当に最高だった。

何より一番好きなのは、個性溢れるキャラたちが晴風の中では自らの役割を全うし、艦長指揮のもと統率が取れ皆で同じ方向を向いていることである
これに感動するのは私が学生ではなく社会人サラリーマンになってしまったからだろうか、なんても思ったりするが。


一方で、残念というか難しいなと思ったのはリアリティ追及の加減
テレビ版では事件の原因を新種のウイルスとした。感染者の性格の凶暴化と電子機器の機能不全、さらには海水で治るといった特徴を設定した。これだけ見ると随分と「都合の良い」設定のウイルスだ。しかしこの絶妙な設定により原因不明の恐怖と向き合う緊張感と、感染した生徒も仲間であるために強引な制圧ができず傷つけないような解決を図る必要性を同時に獲得したわけであった。
それに対して今回の劇場版では、同じ手は二度使えないからか黒幕の正体を海賊とした。リアリティだけなら前述のウイルスよりも現実的だがトレードオフで「取ってつけた感」も否めない。
何より嫌なシーンは国の上層部?が生徒の命を犠牲にしてでも海賊を止めることを示唆していること。しかも責任を取りたくないから敢えて明言せず「分かるよね?」って態度を取っていること。変にリアリティを求めた結果、政治的な建前論が蔓延る嫌な部分だけが浮き上がってきたのは残念。
余談だがアニメ『アイドルマスター』に対する『シンデレラガールズ』も同じ現象があった。

妙なリアリティを高めてしまったのと対照的に、後半のアクションシーンで人間が何mも悠々とジャンプするシーンのリアリティの無さが目に付く。直前の先行部隊が敵艦に侵入するシーンは息を飲むほど緊迫した場面が続いたのに突然ギャグになってしまった。

確かに本作は女子高生が戦艦を操るという土台ムリなフィクションなわけだが、それがむしろエンタメとしての面白さの前提でもあった。前提となる世界観の範囲外での非現実的な動きは一気に冷めるので、もう少し現実と非現実の線引きをこの作品本来の世界観に合わせてほしかった。

そう考えると、アニメ・ハイスクール・フリートがいかに良くできていたかをしみじみと感じてしまう。


さて、では本作最大のトピックに触れよう。
もちろん「作画の体力切れ」である。
これが本当に残念だった。冒頭から中盤にかけてはどのシーンでもクオリティが高く、これが映画じゃなければいちいち一時停止して見とれたり、壁紙にしたいくらい出来が良かった。

後半のあるタイミングから突然作画が劣化したのはよほどのアニメ初心者でない限り誰もが気づいたことだろう。カットによって別の人が描いたことが明らかで、下描きになんとか着色して納品した舞台裏が透けて見える。後から修正できるテレビ放送と違って(テレビならテキトーで良いというわけではないが)劇場版なんだから完成させて欲しかった。

こんな劇場版を作るならじっくりと2期を作ってくれればよかったのに。

完成していない映画を見せられたことがただただ悲しく残念。

 

 

ハイスクール・フリートは2010年代のアニメの中でもトップクラスの出来の良さだったし、本来ガルパンにも並ぶ素養を持っていると思う。このベースを生かす「次なる作品」を心から願う。