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たまには長文を

風夏感想

おそらくこの作品は氷無小雪のCVに早見沙織を起用できた時点で「勝ち」だった。

(以下ネタバレあり)

 

私は序盤から小雪の方に肩入れしていた。
だって不憫すぎるでしょ。
(お互いに好きだと伝え合っていなかったとはいえ)相思相愛だったのに離れざるをえなかったこと。優と二人でステージに立つという約束を叶えるために一人で頑張り続けた結果、自分だけ有名人になってしまい却って優との距離が開いてしまったこと。優と再会できたと思ったら風夏とかいう知らない女とバンドやることになっていたこと。優を応援したいけどその先にあるのは優が風夏と結ばれる未来であるという矛盾。
もうこれで同情しない方が無理だ。
その「悲壮感」を演じられる声優として早見沙織は最高のキャスティングだった。
この作品は風夏がメインヒロインであり、ハーレムエンドになるようなラノベでもない。故に最初から小雪の負けは決まっていた。それでも小雪が救われる展開を密かに願っていた。文化祭の一度限りではなく6人でバンドをやるような結末を心のどこかで期待していた。
結局そんな展開にはならなかったが小雪小雪で吹っ切れて前に進めたようなので満足だ。これ以上は望むまい。
他方メインヒロインの風夏である。序盤こそ優を殴る、人混みで叫ぶ等々強引な描写も見られたが、やりたいことが見つからない思春期の悩みはリアリティがあった。ソロデビューのために勝手に抜けたことを申し訳なく思っているなど身勝手な性格ではないこともあってどこか憎めない。

脇役のキャラ付けもうまい。
例えば沙羅の初登場シーン。優とフォロワー関係だったというだけで重度の人見知りが嘘のように一瞬で心開いていてご都合主義が過ぎると思ったが、後に少しずつ彼女の背景や成長も描いていた。
一歩引いた視点で考えてみると、あの時点ではとにかくバンドメンバー兼優の理解者を増やしつつ優とヒロインとの関係に焦点を当てたかったという都合がある。そのため脇役の配置が多少雑になるのは致し方ない部分もあると思うのだが、それでも脇役を単なる駒にしなかったのは良い。
それぞれ巻き込まれる形で始まったバンドに全力で打ち込みながらも、思春期の、そして将来について考えなければならない高校生のリアルがあった。(まぁ実際のバンドでメンバー内恋愛が発生したらもっとドロドロしそうだけど)

バンドの物語だけあって楽曲はとても素晴らしかった。単体でじっくり聴きたい曲ばかりだった。風夏のキャスティングも成功と言えるだろう。

風夏が携帯電話を持っていない設定も面白い。
家の電話にかけても出るのは風夏の母親、そしてその母が娘を心配するという構図が素直に繋がる。「子供の心配をする親」がまともに出てくる作品は少ない(ヤマノススメとか)。
私が知る限り「携帯電話がない」ことによる「伝えたい思いがすぐに伝えられない」演出が上手い作品はホワイトアルバム1期とアマガミSSの2つだったのだが本作は3つ目になりそうだ。
……ではケータイを持っていれば思いを伝えられるのかというと、そうではないから更に上手い。小雪はケータイを持っているが優からの着信を無視し続ける。
つらそうな小雪の表情と鳴り続けるケータイのバイブ音の組み合わせ、印象に残る良い演出だと感じたが皆さまはいかがだろうか。


優がビンを投げつけられて受傷したシーンを含め、原作の方では優、真琴、沙羅が高校を中退していたり、たまが声帯を摘出して歌えなくなっていたりとなかなかキツい展開もあるようだが、それだけ生ぬるい作品ではないということなのだろう。

最終回を見てから調べて分かったのだが、原作では風夏がトラックに轢かれて亡くなるらしい。
ヒロインが亡くなってなお続行する漫画の方にも興味はあるが、少なくともアニメ用に大胆に改変されたこのオリジナル展開には惹き込まれたし、これで良かったと思う。

ありそうでなかなか少ない"純青春ストーリー"を見せてもらった。