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たまには長文を

慎重勇者~この勇者が俺TUEEEくせに慎重すぎる~感想

2019年秋クールのダークホース。
第1話の序盤から撒いてきた伏線を第11話の後半で一気に回収する、ここ数年でも類を見ない衝撃的などんでん返し。

(以下ネタバレあり)

 

RPGをやったことがある人ならば誰しも序盤でレベルをとことん上げてボスを余裕で倒すことを考えた経験があるだろう。あるいは実際にそのように攻略を進めるのが好きな人もいるかもしれない。(なんかゆるゆりでこんなやり取りがあったな)

本作の主人公・聖哉は敵の討伐よりも自身のレベル上げを優先し一向に進もうとしない。確かに突然異世界に呼び出されて世界を救えと言われたのだからむしろこの方がリアリティのある行動にも思えるが、その光景はとても勇者には見えない。
その様子に唖然とする豊崎愛生演じる女神・リスタルテもおよそメインヒロインとは思えないお笑いキャラと化していて、こちらも女神には見えない。

第3話あたりまでの率直な感想は、着想こそ面白いもののこの調子でストーリー展開が面白くなるのかという疑念の方が大きかった。
違和感は中盤になるとより大きくなった。
というのも、病的に慎重で過剰にレベル上げしてからじゃないと次に進まない主人公の決め台詞が「レディ・パーフェクトリー、準備は完全に整った」にはならないはずだからである


しかし一見くだらなく見えたこれらの演出は随所に散りばめる伏線から眼を逸らすためのトリックであった。転換点となる第11話でさえも前半は休養と称したギャグ調の進行だったから、伏線が一気に回収され「ひっくり返った」衝撃はことさら大きく感じた。

最後まで見た今となっては、世界以上に自らの周囲の人間を救うという聖哉の誓いがとことん徹底されていたことがよくわかる。序盤では町が一つ焼けるのをただ見ていたし、ロズガルド帝国に初めて着いた際は、上空から落とされる兵士が死ぬのを隠れて見るだけだった。
伏線を隠す細工として絶妙なうまさだったと思う。これを見ると聖哉に世界を救う気はないのではないかと多くの人が思っただろう。
もっとも、本当に世界を救いたいのなら、自分のレベルがMAXの99に到達しても難度Sの最終ボスを倒せないと悟った時点で仲間を増やして全員レベル99になるまでひたすらラベル上げを「強いる」方向に行きそうな気もするが、こうしなかったのも上述の誓いと合致する。

そして豊崎愛生の起用は見事なキャスティングだった。終盤に聖哉の秘密を知り言葉を詰まらせたり叫んだりする演技は見事だった。声がかわいいだけの若手声優にはできない演技力を感じた。

あとはハードなOPも良かった。

 

最後に……、第3話の製作が間に合わないことを公表した際に「第3話の公開に慎重」って揶揄されてたのは違う意味で面白かった。