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たまには長文を

若おかみは小学生!感想

小学生の頃に読んでいた「青い鳥文庫」。中でも好きだった「若おかみは小学生!」がこんなタイミングで映画化されるとは思ってもみなかった。

(以下ネタバレあり)

 

【簡単なあらすじ】
おっここと関織子は家族旅行から帰る途中、交通事故で両親を亡くす。荷物を持って祖母の旅館に到着したおっこは旅館に住みつく幽霊・ウリ坊と出会う。さらに幽霊の美陽、魔物の鈴鬼と出会い、色々な客と接しながら成長していく――。


序盤こそ、水の作画がすごいとか虫の描写がリアルだとかそんな技術的(表面的)な所に目が行ってしまったが、中盤からはただただストーリーに心をえぐられるようだった。
特に高速道路で事故のトラウマがフラッシュバックするシーンは胸が締め付けられた。

 

作中何度か現れる『花の湯温泉のお湯は、誰も拒まない、全てを受け入れて癒してくれる』というフレーズが、実は花の湯温泉ではなくおっこそのものを指していることに気付くのに、長い時間はかからない。

だとしても、事故の張本人が客として訪れる展開は強烈過ぎる。
事故の後、退院して家族旅行ができているところを見ると、交通事故の容疑者として逮捕・起訴されているわけではなさそうだ。(されているのかもしれないが。)そして事故の原因も目の前で起きた別の衝突事故を避けようとして思わずハンドルを切ったからとフォローが入れば、それ以上は責められない。男性もまた被害者であり、だからこそ交通事故は救いがない。
やり場のない感情を噛みしめて、おっこにとっては両親を死に追いやった張本人と言ってもいい男性をお客様として受け入れる。その描写は健気というにはあまりにもつらい。

振り返ってみればおっこには最初から選択肢がなかった。
若おかみとして旅館を手伝うことにしたのもほとんどウリ坊に言わされたようなものだった。
つまりこの作品は、おっこが自分で選んだ道を進む成長の物語なのではなく、一つしか存在しない道を前向きに進んだという点で成長物語なのである。
よく「子供には無限の可能性がある」などと言われる。
しかし考えてみれば我々の人生とて、いくつもの選択肢があっただろうか。人生のターニングポイントにおいても、せいぜい二つか三つがいいところだったのではなかろうか。さらに言えば選択肢があるように見えても事実上一つだったのではあるまいか。
そういう意味では実のところ我々の人生もおっことそう相違ない。とどのつまり、今の環境を前向きに生きるかどうかなのだろう。
本作を見て私にはそう感じられた。

 

話がだいぶ飛躍したので元に戻して技術的な話を少しだけ。
長編作品を約90分にまとめたことによる歪みが、全くなかったとは言えない。
途中までは夏だったのに、突然秋になっている。
序盤では叫ぶほど苦手だった虫を平然と素手で触れるようになる描写があり時間の経過を見せる表現自体は上手かったが、うっかりしているとおっこが真月に会いに行くシーンで「そんな恰好では……(寒い)」という台詞に戸惑うだろう。(注意深く見ていれば気付くはずだが)

そして一番違和感があったのはプロローグ。
両親を失ってからランドセルとスーツケースを持ってマンションを出発するその日の朝までどうやって生活していたのか。マンションはどうするのか。小学6年生が一人で旅館まで移動できるのか。
まぁ一人になったおっこが無事に到着し、旅館の人たちに迎え入れられる構図を作るにはこうするしかないので仕方ないか。


長くなったがまとめよう。
ゆったりとしつつも生き生きとした伸びやかな作画は、深夜アニメではなかなか見ることができない、かつて我々が幼いころに見たアニメ―ションという感じだった。
見てよかった。この一言に尽きる。約15年ぶりにこの作品に触れて、ここまで心を揺さぶられるとは完全に予想外だった。

まだ見ていない人はぜひ今すぐ見てほしい。

 

 

 


……最後に。

俺もポルシェのオープンカー欲しい。