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たまには長文を

アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~感想

この道の先ならきっと大丈夫――
あらすじの最後のこの一文こそ、アイカツが送る力強い応援メッセージである。

(以下ネタバレあり)

 

【簡単なあらすじ】
いちごあかりのユニット・コスモスのツアーが始まろうとしていた。冬から春にかけて行われるそのツアーの終わりは、すなわちいちご世代の卒業時期と重なることを意味していた。あおいはロサンゼルスの大学へ、は芝居の道に進みたいと語った。いちごは具体的な進路は決めていなかったが、頑張ることは変わらないと語った。
時間は進んで3年半後。あおいは大学卒業に向けて勉強を重ねる傍ら、ロンドンのみづきと電話をしてそれまでの生活を振り返る。一方日本では、いちごと蘭が一緒に暮らしていた。ある日、いちごが鍋の具材を買って帰ると蘭も同じことをしていた。それならばとらいちユリカたちを呼んで鍋パが始まった。旅行にでも行きたいと話すいちごたちを見ていたらいちは、「仕事の話はしないの?」と問いかける。それを受けたほろ酔い気分のユリカは「しない」と断言する。重ねて「いろいろあるのよ」と付け加えるユリカに19歳の大学生らいちは何かを感じた様子。
時間は戻って卒業前。いちごの「卒業記念ライブをやらせてもらおう」という提案で話が進んでいく。それはソレイユ活動休止前の最後のステージでもあった。織姫学園長は「星宮世代の卒業はひとつの区切りになる」と口にした。ステージで使う写真はいちごたちの合格発表のものからたくさんあり、皆でどれを使うか迷うと同時にそれまでの思い出をみんなで噛みしめていた。
卒業記念ライブ、みづきも加わってステージが始まった。そして最後にソロイユの新曲「MY STARWAY」が披露された。
エピローグ、時期はいつごろだろうか。スターライト学園の広場に集まったいちご、あおい、蘭の三人は再び何かを始めようとしていた――。

 

見終わって最初に思ったのは、身も蓋もないことを言うようだけど「うまいこと作ったな」と。
卒業までの最後の期間を重点的に描いてエピローグでおまけ的に卒業後の様子をチラ見せする構成だってよかっただろう。ところが本作は「卒業後にそれぞれどうするか」を描くことに真正面から向き合った。
とはいっても制約は生じる。
卒業後のぞれぞれの進路は具体的に描きたいとしても、映画のクライマックスは卒業記念ライブにするしかない。また映画の冒頭をいきなりいちごたちの卒業後にするのも難しい。
なぜなら「卒業についてあまり意識していないいちご」のシーンを作るのに映画自体が卒業後から始まってしまっては、視聴者は卒業後のいちごを先に見てしまうからだ。とすれば畢竟、序盤は卒業前、中盤で卒業後、終盤で卒業直前と時間軸を大胆に前後させる構成にするしかない。「するしかない」なんて、実際に映画を見てきたから言えるけど、これをイチから作るのはかなり大変だったのではなかろうか。


作風としては全体的に多くを語らない感じ。
台詞を排したBGMだけのシーンが何度かあった。それぞれが自分自身と向き合って努力を重ねている様子を描くのに、もはや独り言のような台詞は必要ないのだろう。むしろ台詞がないことで見る側が思い思いに補完することを求めているようなところもある。
有名演出家の下で芝居に打ち込む蘭が、やや抽象的な助言を受けて一人練習を重ねているのも高校生ではなく「大人」らしい。


中盤では鍋パのシーンが一番印象的だった。きっと私だけではないだろう。いくらアイカツファンと言えど、各自が黙々と努力するシーンだけ繋ぎ合わされても映画として退屈になってしまう。それはもうドキュメンタリー番組である。

集まっても仕事の話をしないのは、わざわざしなくてもそれぞれの活躍が聞こえてくるからだろう。それだけみんな活躍しているということを、直接言わないのが粋で気が利いてる。そして酒を飲んでいること自体「みんな大人になったんだな」と思わせる強烈な強さがあるし、みんなが各自別々の酒を飲んでいるのも「それぞれの道に進んだ」ことが強調される仕掛け。ユリカ様が酔っぱらってフラフラになってるのが面白かった。


逆に会話が弾んでいたのはこの鍋パのシーンくらいで、そこ以外は多くを語らないことでむしろ一つ一つの言動が際立っていた。無駄を削ぎ落としていく「引き算」で作られたストーリー展開が美しい。

 


公式HPのストーリーページには以下の一文がある。
まだ知らないどんな夢が待っていても、この道の先ならきっと大丈夫――

10年も経てば卒業や入学、就職した人もいるだろう。さらには結婚や出産、転職など経験をした人もいるかもしれない。そういった人生の「節目」と呼ばれるタイミングを迎えるとき、人は誰しも漠然とした不安に駆られる。

そんな不安を抱えた「全ての人たち」に向けて、アイカツは力強くエールを送る。

"この道の先なら"きっと大丈夫。
それまでの人生を肯定しつつその先の未来が良いものであると優しく背中を押されたような気がして、率直に「これからも頑張ろう」と思えた。心が洗われた。

悩みながらも自分で選んだ道を進もうと頑張るとき、アイカツはいつもそばで応援してくれているのだ――。

 

 

その他雑感。

BMW Z4に乗る紫吹蘭。アイカツではちょくちょくBMWが出てくる。
・3年半の年月を行ったり来たりする構成は大胆だけど、それを言ったら本編でもいちごが留学していた1年を一瞬でスキップしたから今さらなんだよね
【朗報】飲酒もアイカツ
・"いち蘭"宅にウイスキージャックダニエル)と芋焼酎とワインと日本酒が揃うのも面白い
・へそ出しショートパンツのあおい姐さん、風邪ひくから温かい格好して
・ガウン着てワイン飲みながらりんごと電話してる織姫学園長。エロ・・くはないかな‥うん・・
いちご世代の卒業記念ライブにみづきが侵入してるのいいのか?
・てかアイカツシステムに入るには「学生証」が必要なのでは?
・もうこの門をくぐることはないって卒業したのに夜の学園に侵入しているソレイユ。「解散」じゃなくて「休止」だから、ソレイユにもまた「この道の先」があるのだ。