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たまには長文を

恋愛フロップス感想

ゼロ年代のエロゲ原作萌えアニメの"匂い"が随所に感じられる良作。個人期にはめちゃくちゃ刺さった。面白かった。

(以下ネタバレあり)

 

――その予感は、第1話を見る前から。

 


そして第1話を見て予感は少しずつ確かなものに。


序盤はラブコメベース。ヒロインたちは初対面のくせに最初から主人公への好感度MAX。ただの主人公に都合がいいハーレムものかと思いきや、ふとした拍子にヒロインの脳裏に浮かぶデジャヴが緊張感を誘う。
それぞれヒロインには主人公との思い出がありそうな反面、主人公には身に覚えがなさそうなのが謎を呼ぶ。


結論としてはヒロインたちは皆ベースが井澤愛の意識で、世界そのものが虚構であった。愛が脳の病気で若くして亡くなる展開は、最後まで主人公を心配させまいと振舞うところが特に悲しくて胸が締め付けられるようだった。
仮に愛本人の意識でなかったとしても、ベースを引き継いだAIと主人公との間で好意を伝えることができて良かった。
序盤のヒロインたちがありえないほど強引に主人公に迫っていたのも理由があったわけで、仕掛けがうまかった。
元になる意識が一つなので、ハーレムもののようでありながら純愛であるとも解釈できよう。


さて、作中に現れた往年のエロゲ/エロゲ原作萌えアニメのエッセンスも見逃せない。
個人的に一番印象的だったのは第7話。
桜の木がダ・カーポのリスペクトなのは言うまでもないとして、時間が止まったのは『リトルバスターズ!〜Refrain〜』(2013年)を思い出したし、EDでキャラがいなくなるのは『ef - a tale of melodies.』(2018年)のOPで見た演出。
こういうの、ゼロ年代のエロゲ原作萌えアニメを見てきたアニオタに刺さりまくる。

 


一方で、30代の私でもこれくらいしか分からなかったとも言える。本作に仕込まれた「元ネタ」をもっと分かる人は果たしてどれくらいいるのだろうか。機会があれば解説を見てみたい。

 

シリーズ構成にして全話脚本は安本了。アニメ業界では以前シュタゲに関わったことがあるようだが、それしか情報は見つからなかった。2番目に手掛けた作品でシリーズ構成・全話脚本をやってのけたのであれば本当にすごいことだと思う。

 

本作はオリジナルアニメであるものの、AIとか情報工学の用語や描写を2020年代にアップデートした古き良き「エロゲ原作萌えアニメ」そのものだった。
序盤のハーレムラブコメに始まり中盤以降AIの反乱へ。純愛やつらい過去と向き合いそれを乗り越えたあと、最後の最後にまたドタバタとした日常が始まる締め方まで、王道中の王道展開だった。
改めて、2022年にまだこのタイプの作品を見ることができて幸せだった。