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たまには長文を

ぼっち・ざ・ろっく!感想

原作がきららの4コマ漫画なのによくぞここまで見どころ満載の「濃い」作品が生み出せたと思う。劇中歌の歌詞が作品の世界観に合っているのもすごいし、一度聞いただけでも耳に残る良い楽曲の数々だった。
原作者のはまじあきもキャスティングに始まり全話の脚本会議やアフレコ、楽曲に至るまであらゆる領域に参画して細かくチェックを重ねたようで、その熱量が画面越しに伝わってくる。

(以下ネタバレあり)

 

作画が面白かった。「良かった」とも言えるがそれより「面白かった」。
ダムの映像を使ったり、SICK HACKのライブシーンでサイケデリックな絵を見せたり、あとはなんと言ってもぼっちのキャラデザの意図的な崩壊が面白かった。リョウがドラムを小馬鹿にして虹夏からグルグルと追いかけられるカットや、全力疾走して顔が紫色になるぼっちも印象的だった。

かと思えば、夕暮れの自販機を背に虹夏がぼっちにバンドへの思いを語るシーンの動きはすごかったし、ライブの音圧でペットボトルがわずかに振動しているカットは非常に印象的だった。作画もだけどアイデアがすごい。


キャラデザ崩壊みたいな誰にでもわかりやすいキャッチ―な演出のみならず、考えされられる作画もあった。
通行人がぼっちときくりの演奏に見入ってしまい「押しボタン式信号」を誰も押さない(だから信号が赤のまま変わらない)ところとか、敢えて描かなくてもよかったはずの弁天様を画面に乗せてくるところとか。
※普通、「ポジティブ」なシーンで信号が映る場合は大抵「青」にする。しかし今回は「押しボタン式信号」なので歩行者用信号はずっと「赤」だった。何回か映ったので意図的だと思う。

 

 

(まぁこれは深読みしすぎで的外れかもしれないが)

 

最初の頃は腕ごと振ってギターを弾いていた郁代が、終盤では他のメンバーと同じように全身使って弾いている進化も見事だった。本当に作画の工夫が細かい。

 

キャラデザ兼総作画監督のけろりらは当初から本作のファンだったようで、アニメ化企画の動きを自分で探して自ら立候補したようである。しかも総作監でありながら全話で原画に参加して描きまくっていたようなので恐れ入る。

 

 

それから音楽。 作詞を依頼した3名に対して作品のコンセプトの説明から行うだけでなく、3人とも原作を読んだらしい。歌詞が作品の世界観に合致しているのはここから来ている。演奏面では右からはひとりのギター、左からは喜多のギターが聞こえるようにしているとか。
また第8話の「ギターと孤独と蒼い惑星」の下手ver.を別に用意したのもすごいこだわりである。 ちなみに私は大学祭などで素人バンドを見るのも好きなので、第8話の下手な方のギターと孤独と蒼い惑星も普通に楽しんで聞けた。


楽曲製作は原作者も入る形でなんと2019年からスタートしていたらしい。本作は2022年秋クール、放送まで3年かけていることになる。 さらに本編で使っていない曲もあるというから驚くばかり。
ビジネス的には楽曲そのものだけでなく、プロの音楽家をたくさん制作に呼び込んだスタッフ陣の人脈みたいなものもすごい。

 

キャラクターがちゃんと「生きて」いた。 「物語を進めるためだけの駒」に成り下がっていなかった。
友だちを作ったり自分から人に話しかけたりすることが極端に苦手なくせに承認欲求だけは人一倍で弾いてみた動画を投稿するぼっちの人間臭さは、私たち視聴者に共感を抱かせる。
虹夏も実はインドア派で、陽キャな郁代に表向き付き合っていても、疲れると自分優先で動くところが人間らしくてリアリティを感じた。

まぁリョウが道に生えてる草を食べていたり、現金の持ち合わせがないのに誰かを呼ぶ前提で喫茶店に入って食事したりするシーンはさすがに引いたけど・・。

 

 

脚本は第1話の初稿が2020年12月にできていたという。繰り返すが本作は2022年秋クール。昔『SHIROBAKO』を見た(程度の)知識で、アニメ制作はいつも時間がないのかと思っていたが、こうやって2~3年前から準備を進める作品もあるということだろう。驚くとともに勉強になった。

 

 

今回は久しぶりに褒めまくりの文章になった。

制作陣が原作を愛して、たっぷり時間をかけて関係者と連携を取り、熱を入れて制作すればこれだけ素晴らしい作品になる。まさに「渾身の一作」であることがよく分かる名作だった。全部良かった。