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たまには長文を

Vivy -Fluorite Eye’s Song-感想

人類vsAI。あるいは人類滅亡の危機。あるいはタイムトラベル。人間と違わないAIの人権、そしてAIの心とは。
様々なSF要素を絶妙なバランスで織り交ぜた2021年の傑作のひとつ。

(以下ネタバレあり)

 

毎回予想できない展開が続き30分があっという間だった。人類vsAIの構図で、主人公が人間ではなくAI側なのも珍しい気がする。

 

ヴィヴィ「私にとって心っていうのは、思い出の、記憶のことなのよ」

最終回のこのセリフが本作の最重要ポイントだと思う。
AIにとって心を込めるとはどういうことなのか。物語の中盤以降は定期的にこのテーマが問われた。
私は正直言うと曖昧なまま物語を閉じると思っていた。この問いに対する答えは難しく、あるいは何を言ってもどこかに違和感が残るテーマだからである。

故に、最終回のこのセリフを聞いたときは人一倍シビれた。
私は本作の中盤のタイミングで下記の感想(つぶやき)を残している。

 

「記録」と「記憶」。本作の脚本は一言一句に至るまで神経を研ぎ澄ませて紡がれたものだろうとは感じていたが、その予想がピタリとはまったような衝撃を覚えた。

心とは、思い出であり、記憶――。
何度反芻しても味わい深い。

さて、本作でえがかれる「人類を滅ぼしAIが人間になり替わる」という結論は単なるAIの暴走でもバグでもない。AIが演算を重ねて導き出したAIなりの最適解である。AI自身が迷っていて、結論をヴィヴィに託すというのもその表れだ。

アーカイブ」が今の人類は不要と結論付けたのであれば、そう結論付けるに至るだけの人類の悪行があったわけだし、2回のタイムトラベルを経てシンギュラリティ計画を完遂できたとしても、将来また同じ状況に陥りそうな気もする
そのときにまたヴィヴィが出てくるのかは分からないし、エピローグではアーカイブにデータを収集しないようなことも示唆されているのでまた別の未来が待っているのだろう。
何よりこうやって最終回を見終えたあともその先の展望を想像してしまうあたりこの作品のパワーがすごかったと言えよう。

久しぶりに骨のある、心に残る傑作だった。