change direction

たまには長文を

冴えない彼女の育てかた♭感想

なんと言っても丸戸脚本の力強さ。
直接的な描写を控えちょっとした仕草で感情表現を描く見せ方はこの第2期でも健在で、供給過多と言われて久しいアニメ業界において格の違いというものを見せつけられた。

(以下ネタバレあり)

 

クリエイターとしてモノを作るのがいかに大変かだけではなく、ディレクターとしてプロジェクトを進めるのがいかに大変かも見せてもらった。
ブコメ・ハーレム・ラノベ原作、そんなカテゴライズがどうでもよくなるくらいストーリーが濃密だった。

具体的には例えば、詩羽の
そんなの、澤村英梨々は喜ぶかもしれないけれど、柏木エリにとって、幸せだとは思えない」という台詞。
倫也の友人としての人格とクリエイターとしての人格は別として扱わなければならないことを印象づけつつも、そこでどう言葉を選べばよいのか難しいことを描いていて特に好きなシーン。倫也は答えを出せなかったがもしかしたらそこに正解はないのかもしれない。

あと某有名(?)ブロガーも指摘していたように、茶店で恵が見ていたスマホの画面が暗くなるというたったこれだけの描写で、倫也から送られてきたメールを恵が長時間見ていたことを描いているシーン。一言も発していないのにこの強烈さ、天才かと思う。

第10話で英梨々が泣いたシーンも良かった。
声優のアイドル化(ドル売り)傾向が強くなるのと引き換えに演技力の低下が著しい昨今の声優業界。こうして「泣く」演技をちゃんとできる声優は本当に少なくなった。
好きな人と一緒にいると前に進めないという矛盾に対して涙が出るほど、大泣きするほど悲しい感情の表現が見事だった。

ネット上では、このような英梨々や詩羽を指して「負けヒロイン」と安易に嗤う声も多い。
本当に内容を理解して見ているのだろうか。
彼女たちの心境に思いを馳せれば、その苦しさに胸を打たれこそすれ、負けヒロインなどとバカにすることなんてできないはずなのに。

松岡ボイスも外せない。感情の乗せ方が上手いし慌てる演技もわざとらしくないし、何より山場のシーンでキメるときの声がカッコよすぎる。
第2話の物語シリーズリスペクトも面白かった。

輪郭線を黒以外の色で塗る亀井監督独自の技はこの2期でも光っていた。最終回は特にこの特徴が出ていて印象的だった。

同時期放送のエロマンガ先生も似たような構造でこちらも面白かったのだが、それでも、同じラブコメラノベ原作でありながらここまで差が出るのかと驚いてしまう。
そのくらい深みが違う。

そもそも脚本の丸戸文明はゲーム畑の方である。PCゲーをほとんどやったことのない私は、おそらく彼の本来の魅力の2割も味わっていないのだろう。それでも2013年放送のWHITE ALBUM2(実際に見たのは放送ではなく後輩が所有していたblu-rayの方)で惹き込まれ、さらに特典のオーディオコメンタリーの解説でその考えの深さに感動した。

そして本作である。上で書いたこと以外にも語り尽くせないほど奥深く丁寧に練り込まれた内容は、一人で全話書くからこその一貫性も加わって毎回期待を超えていた。

次は劇場版らしい。できれば映画ではなく第3期をお願いしたかったが、楽しみに待ちたい。