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たまには長文を

劇場版PSYCHO-PASS SS第三作感想

劇場版三部作の中では最もPSYCHO-PASSらしくなかった。
ただし何をってPSYCHO-PASSらしさとするのかは難しいのでのちほど触れたい。

(以下ネタバレあり)

 

【あらすじ】
狡噛は日本を離れアジアを転々としていた。そんな中、「停戦監視団」の団長ガルシアと出会う。ガルシアに気に入られチベット・ヒマラヤ同盟王国への足を提供された狡噛は、道中武装ゲリラから難民が乗ったバスを救出し、その中にいたテンジンという少女から親のかたき討ちのために戦い方を学びたいと懇願される。殺人ではなく護身を教えることを条件にテンジンの村でしばらく暮らすことにした狡噛の元に花城フレデリカが訪れる。花城が来たの表向き理由は日本に帰国できない「日本棄民」の調査であったが、真の目的は狡噛との接触だった。一方その頃ガルシアは、武装勢力を止められず混乱が続くアジアの各国の和平交渉の準備を進めていた。
和平交渉の最中、偶然親の仇を見つけてしまったテンジンは密かにあとをつける。そこで目にしたのはガルシアと武装ゲリラが密かに連携し、自ら紛争を巻き起こしているという事実だった。テンジンは狡噛の銃で復讐を試みるも撃てず、逆に気付かれ腹部にナイフを刺されてしまう。
出血しながらも逃げてきたテンジンから事実を伝えられた狡噛はガルシアへの復讐を決意。花城の協力も得て復讐を完遂する。和平交渉を進めるためガルシア殺害の容疑者となった狡噛であったが、花城の説得を受け日本への帰国を示唆した。


まず最初に言いたい。
あのカッコよかった狡噛はどこへ行ってしまったのか
確かに作中で語られたように、人間に絶望しつつもどこかに期待を抱いている狡噛の心情は分からんでもない。しかしその結果、殺意を持った敵にとどめを刺さず背を向け、あろうことが二度も死にかけるほど油断と隙が多くなるなんて予想外だった。
二度目なんて3発くらい銃弾を受けていながらその場の手当で回復している。いくら鍛えているとはいえちょっとリアリティに欠ける。

ストーリー自体は比較的シンプルで分かりやすい。「良い人だと思っていたら実は黒幕でした」という展開は手堅い。
テンジンの、親を殺され復讐する思いがありながらその優しさ(優しさとは違うかもしれないが)から、復讐の絶好の機会に銃を射ち抜けない展開は多くの視聴者が予想できたことだろう。

まぁCV諸星すみれの天使ボイスでは人を殺せないことはある意味明らかで、テンジンが登場した瞬間にCV諸星すみれと分かればその時点でオチまで見えたことだろう。

人を殺してしまったら、人を殺す前の自分には戻れないという台詞も印象的。死が贖罪であるキリスト教と輪廻の一部に過ぎない仏教の宗教観の違いも奥深い。


ではそろそろ最初に書いた「PSYCHO-PASSらしさ」について書こう。
前回も書いたかもしれないが、私が期待する「PSYCHO-PASSらしさ」とは100年後という近未来設定を存分に生かしつつ高度なシステムの裏をかく読み合いや駆け引きなのである。
一方でWikipediaの記載を信用するならばPSYCHO-PASSの基本的なコンセプトは近未来SF、警察もの、群像劇の3つになっている。
今回の劇場版三部作は特定の誰かにフォーカスしているので群像劇要素は多少薄まっているかもしれないが、確かにこれらのコンセプトは一貫しているように思う。

しかしこの前提を加味してもなお、特にこの第三部はPSYCHO-PASSらしくなかった。シビュラもドミネーターも色相も出てこない。"100年後"感もない。終盤でドローン同士の戦闘はあったものの画面が暗くてよく分からなかったのが正直なところ。
紛争が続くアジア地域が舞台では近未来の要素なんてある方が不自然なのは十分わかっているが、それはPSYCHO-PASSでやらなくてもいい気がする。

お互いの頭脳を駆使した読み合い・心理戦・駆け引きが鳴りを潜めた代わりに、血なまぐさい銃弾線や殴り合い描写は今回もしっかりあって、スタッフ陣はどうしてもそちらを描きたいようだった。

他ならぬ監督や脚本家がそれを描きたいのであればいち視聴者としてはそれ以上何も言えないけれど、近未来SFとか駆け引きとか色々やっておいて結局最後に殴り合いになるのが微妙なんだよね。

そして以前指摘したPSYCHO-PASSの物語を拡張することの難しさについては今回も影を落とした。そもそもなぜ各国に派遣された技術者が日本に帰国できなかったのか、その答えはシビュラ不適合者をていよく国外追放するためだった。これでまた一つ、シビュラの不完全性が示されてしまった。


今回の事件で和平交渉を進めるためとはいえ狡噛が関係者暗殺の容疑者になっている展開は好き。誰かが悪役にならなければならない。
このあたりはコードギアスの2期を想起させる。

物語の最後に「日本に戻るか」と言った狡噛だが、今回のこともあるし作中では日本に戻れば殺されるとも言っていたしどうやって帰るのだろうか。この辺はどうなるのか期待したい。

劇場版三部作もこれで終結。確かに映画館の巨大スクリーンで見るPSYCHO-PASSは迫力があって面白かったし見てよかったと思う。


2019年に3期の放送が告知された。
アニメ第1期が2012年だから息の長い作品になってきた。

正直、私は薄々気づいている。一つの事件を丸々2クール使って描いていく構成でもない限り、次の第3期は第2期よりもさらに凡庸な作品になるだろう。
それでも、第3期に期待せずにはいられない。次こそは何かをやってくれるんじゃないかと、ピリピリする読み合い・心理戦・駆け引きを描いてくれるんじゃないかと期待して、第3期を待とう。